京大に学位撤回求める
731部隊の生体実験めぐって学と軍の付着
京都で講演会 150人以上が参加
常石敬一神奈川大学名誉教授が講演(写真は2枚とも筆者撮影提供)
5人の研究者が学術研究と軍事研究の関係についてアピール
4月14日、731部隊の生体実験をめぐるテーマでの講演会が京都大学で行われた。
京大出身の731部隊軍医が博士論文として提出したペスト菌特殊実験については疑義があるとして、その検証を京大に要請する「旧満州第731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会」が主催した。
3時間を超えるこの集会には150人以上が参加し、通路もぎっしりと埋まった。
常石敬一(つね いし けい いち)神奈川大学名誉教授が、「研究者が戦争に協力する時―731部隊の生体実験をめぐって」と題して講演、731部隊における石井機関(防疫研究機関)の報告が学位論文として提出されていたこと、および、その審査の実態などを明らかにし、学と軍の癒着を指摘した。
具体的には、博士論文として提出された「イヌノミのペスト媒介能力ニ就テ」というペスト菌特殊実験の報告にある「発症シテ頭痛、高熱、食思不振ヲ訴ヘ…」という文言について、「実験に用いられたとされるサルは実はヒトではなかったか」という疑いを指摘し、その学位授与について検証を求めたものである。
なお、国立公文書館が開示したものからは、731部隊に派遣された軍医、医師、看護婦など3607人の実名が明らかになり、また京都大学大学文書館からは、京大関係者が731部隊派遣を発令されていた文書も発掘されている。
同会は、京大に対し731部隊所属者に関係する文書の開示請求も行なっている。
研究者5人がアピール
講演に続いて、5人の研究者が学術研究と軍事研究の関係について警告のアピールをした。
同会事務局長の西山勝夫滋賀医科大学名誉教授は、京大における731部隊関係学位授与者別調査結果から、総計34人の研究者が該当しており、厳粛であるべき学術論文について京大に検証を求めた。
鰺坂真(あじ さか まこと)関西大学名誉教授は、科学者の道義的責任について、科学研究には国民的な激励とともに監視が必要であるとした。
池内了(いけ うち さとる)名古屋大学名誉教授は、科学研究費のうちの委託研究費(※安全保障技術研究推進制度)が2015、2016、2017年で3億円、6億円、110億円と急増していることをあげ、大学や学会が公開性、倫理性、自律性にもとづいてガイドライン、審査基準をもつべきだとした。
広原盛明(ひろ はら もり あき)元京都府立大学学長は、現在、中国社会科学院において731部隊の研究が進んでいるなか、軍事機密として部隊の設計図をはじめ多くの資料が日本により完全処分されたことなどについては、日中両国の学術協力が必至だとした。
福島雅典(ふく しま まさ のり)京都大学名誉教授は、「哲学のない科学、技術は凶器だ」「戦争を悲惨にするのは科学者、研究者である」と指摘し、科学研究はいつでも軍事に転用できるという危険性を訴えた。
活発な意見や質疑
講演とアピールの後、フロアからは、現在のシリアでの化学兵器使用との関連、軍事研究と大学のガバナンス、民間企業の技術開発…など活発な意見や疑問が出された。
戦争体験をもつ高齢者をはじめ、学生(留学生も含む)や若い社会人も多く、関心の高さがうかがえた。
講演会の後、マスコミ各社向けの記者会見が行われた。
(日中友好協会京都府連合会左京支部 吉村澄代)
【安全保障技術研究推進制度】とは?
将来的に武器など防衛装備品に使える基礎研究の育成を目的に、15年度に防衛装備庁所管の制度として創設された。防衛装備庁がテーマを決め、大学や企業、研究機関を対象に公募する競争的資金制度。採択されると年最大3000万円程度の研究委託費を1~3年間受けられる。
予算は、15年度3億円、16年度6億円から17年度は110億円に急増した。15、16年度に高出力レーザーなど19件(うち大学9件)が採択された。