私と中国〈914〉
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神田外語大学非常勤講師
遠藤 美幸さん
戦争の苦難は 婦女子に集中
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2001年の夏、かつてJALの客室乗務員時代に機上で出会った男性から、研究者に転身した遠藤さんに、拉孟戦の資料が送られてきた。
中国とビルマの国境で1944年6月~9月に起きた拉孟戦は、日本軍守備隊が圧倒的多数の中国軍に敗れた、知られざる戦いだ。10年以上かけて元兵士たちの証言を聞き、膨大な資料を読み込み、辺境の拉孟にも出かけて自分の目で現場を確かめた労作が、著書『戦場体験を受け継ぐということ ビルマルートの拉孟全滅戦の生存者を尋ね歩いて』(高文研)(本紙14年12月15日号で内容紹介)。
兵士たちの生々しい感情や人間くささも書き込まれているので、ノンフィクションとしての読み応えも十分にある。
「彼に出会わなければ、中国人側から見た拉孟戦を知ることはできなかった。日本人の視点だけで書いていたかもしれない」と遠藤さん。その人とは、東京在住の中国人男性ジャーナリスト。
また遠藤さんは、日本の兵士たちから、戦場で運命をともにした「慰安婦」は戦友のような存在だったという話を聞いていたが、実は朝鮮人「慰安婦」が「私は人生のすべてを失った。死にたい」と中国人ジャーナリストには打ち明けていたことも、分かった。
「戦争は人間がすることだから、複雑で多面的で、矛盾もいっぱい。今、戦争が近づいているのは確かで、いちばん辛い思いをするのは普通の人。戦争は兵士だけでなく子どもや女性などより弱い立場の人に抑圧と苦しみが重積するような仕組みを作るのです。普通の人たちこそ過去から学ぼう、と伝えたいのです」と遠藤さん。
今後はビルマ戦線にも研究を広げたい、と話す。
(室田元美)
遠藤さんは、1963年秋田県生まれ。95年慶應大学経済学研究科博士過程修了。82年から88年まで日本航空国際線客室乗務員として活躍。現在は神田外語大学非常勤講師(歴史学)。
(編集部)