日中友好新聞
どう打開、今後の展望
複雑な日中関係の下で 中国の日本語教育事情
福州大学日本語学科准教授
葛 茜
授業の様子(卒業後、日系企業に就職する学習者も多い)
学習者95万人で世界一
中国は量的にも質的にも日本語教育大国のひとつです。国際交流基金2015年度の調査によれば、全世界137の国・地域で、約365・5万人が日本語を学んでおり、うち中国は26%の約95・3万人を占め、世界一です。
中国の日本語教育の発端は明代(1368~1644年)にさかのぼると言われていますが、解放(1949年)前は国際情勢や戦争の影響で、ほとんど停滞していました。
1950年代から中央政府の外国語教育重視政策にもとづき、本格的な日本語教育が開始。文化大革命(1966~76年)中に一時中断したものの1972年の日中国交正常化により第1次の日本語ブームが起きました。
1980年に当時の大平首相の提唱で「在中国日本語研修センター」が設立され、85年までの5年間に計600人の大学日本語教師の再教育を実施。1980年代半ばには、日本政府の「留学生受け入れ10万人計画」、日本企業の対中投資増加が追い風になり、第2次日本語ブームが訪れました。
1990年代も、年代後半から始まった中国の大学大衆化を背景に、日本語学科設置の大学は98年の114校から、03年の250校、15年の506校に急増し、今も英語に次ぐ第二の外国語の地位にあります。
動機は対日関心・興味
全体の6割以上の学習者が大学機関で学び、中・上級レベルに達する人も非常に多い。教師の日本語力も全般に高く、日本で学位を取得した大学日本語教師も少なくありません。学習者の日本語学習の動機は、全体的にビジネスや観光といった実利志向が高く、卒業後、日系企業に就職する学習者も多い。
また、日本の大衆文化や観光等の文化的側面が若者に日本への興味と関心を強く喚起しています。
2010年が転換点
2010年に入って、中国の大学の日本語教育は新たな転換期を迎えました。最も顕著になったのは、日本企業の中国事業縮小や撤退もあって、日本語専攻生の供給過剰による就職難、教育の質低下への懸念です。
また、複雑な日中関係、いまだに中国の社会に根強く存在する「反日」の社会風潮が日本語学習者の学習動機や学習意欲を強く左右しています。
実際、筆者が福建省の福州大学で教鞭を取っていたこれまでの間、入試の点数が希望する専攻に満たず、仕方なく日本語専攻に回され、卒業まで日本語が好きにならなかった学習者に何人もめぐり合いました。
一方、教育現場では、「文系=無用」、「外国語=道具」という風潮が強い支配力をもち、日本語教師は「研究業績一辺倒」の大学評価システムに振り回され、研究と教育の多重な任務が求められています。
募集停止や定員削減も
毎年の日本文化祭で、日本の太鼓を披露する学生たち
近年、日本語学習者が想像以上に減少し始め、募集停止や、定員削減などの措置を取る大学も増えています。これらの現状に危機感を覚え、改善と今後の発展に向けて、さまざまな指摘がなされています。
天津外国語大学の学長で、教育省外国語教学指導委員会副主任の修剛教授は、日本語学習者の減少は実利主義から理性的選択への回帰の兆しとし、今後の日本語教育は国際視野の養成に重点を置くべきだと強調しています。
また、北京日本学研究センターの主任・徐一平教授は、日本のソフトカルチャーによる中国の若者への影響力に注目し、これらの文化的学習動機をもつ日本語学習者は今後の日中友好に新たな力を発揮できると大いに期待しています(『日語界』コラム「大家・説」より)。
複雑な感情が絡み、さまざまな負と正の遺産を継承し、今後も切っても切れない文化や経済のつながりをもちつつ、対抗や紛争を繰り返す中国と日本であるからこそ、さまざまな問題に直面している中国の日本語教育は、今後何を目的に、どんな人材を育成するのか。日本語教育しか担えない役割は何かを、真剣に検討しなければならない時期が到来したといえましょう。