日中友好新聞
すっぽりスモッグ北京の空
中国大気汚染の現状は?
藤本隆
赤色警報の出た北京市内をマスクをつけて自転車に乗る人たち=2016年12月20日
北京で5回目の冬を迎え、中国人によく聞かれるのが「北京の大気汚染には慣れましたか」という言葉です。冬の大気汚染、微小粒子状物質PM2・5は北京の人びとの日常になっています。
中国版LINE「微信(ウイチャット)」では、空気の悪い日は、皆が北京各地のスモッグの写真を配信し、空気のいい日は青空の写真と共に、「今日は肺をきれいにしよう」などと書き込んでいます。
汚染が日本基準の10倍
PM2・5はぜんそくなど呼吸器疾患の原因になると言われています。北京ではPM2・5の濃度が、日本の基準(1立方㍍当たり35マイクロ㌘)の10倍以上の日が多くあります。
とくに子どもへの影響が深刻で、ぜんそくが増えているという報道をよく目にします。北京市は幼稚園や学校に空気清浄機を設置する準備を進めています。
2013年以降、中国政府はさまざまな対策を打ち出しています。違法な汚染物質排出工場の閉鎖、ガソリンの質の改善などを推進。最近は、バスなど公共交通の本数を増やし、携帯電話で簡単に借りることのできる公共自転車を導入するなど、クリーンな交通にも力を入れています。
北京市政府は、昨年のPM2・5の年間濃度は一昨年より9・9%減ったとアピール。重度・深刻な汚染の日数も前年より7日減だといいます。
4年間の大気汚染状況(単位:日)
深刻な汚染、重度汚染、中度汚染、軽度汚染、良、優
(中国紙「新京報」掲載のデータから作成)
幼稚園と学校は休みに
しかし今冬は、12月16日夜から21日まで史上最長の大気汚染「赤色警報」が出されました。赤色警報では、すべての幼稚園と小学校が休みになり、ほとんどの中学校、高校が休校。市内を走る自動車が半数に制限され、市民生活にも影響が出ました。
新年も大気汚染の中で迎え、元日の北京のPM2・5平均濃度は500?㌘を超えました。
北京で暮らしていると、冬はほとんどの日がスモッグに覆われ、大気汚染が改善されているという実感はありません。実際、北京市政府が発表した、過去4年間の11、12月を比較した結果によると、15年と16年の2カ月で空気が非常に良かった日はわずか8日。13年(16日)、14年(23日)から大幅に減っています。
中国の陳吉寧環境保護相は1月6日の記者会見で、「過去4年間実施した対策で、空気の質は改善し、改善の速度は先進国よりも速い」と強調。一方で、「冬季の汚染改善については、改善の程度が小さい。われわれの措置はまだ不十分だということだ」と認めました。
石炭消費多い北京周辺
なぜ北京で大気汚染が深刻なのか。陳氏によると、北京周辺での鋼鉄やセメント生産量が多く、それに伴う汚染物質排出も多いためです。北京、天津、河北、河南、山西、山東の6省市は中国全土面積の7・2%にすぎませんが、中国全体の33%の石炭を消費しています。
さらに冬は公共のスチーム暖房が提供され、汚染物質の排出を3割増加させるといいます。
中国社会科学院が昨年末に発表した「社会青書」は、中国の急速な工業化の過程で、先進国では時間をかけて発生した環境問題が、短期間に集中的に発生していると指摘。「汚染対策や環境改善への難易度はかつてないものだ」と強調しました。
日本人訪中減の原因に
昨年、日本を訪れた中国人が600万人を超え、史上最高を更新した一方、中国を旅行する日本人は減少しています。原因の一つが大気汚染です。北京市政府関係者は「外国から技術協力などを受ければ、5年後には汚染は改善される」と言います。中国の未来や日中関係のため、一日も早く大気汚染がなくなることを願っています。
(ジャーナリスト=北京在住)