日中友好新聞
南シナ海問題
どう見る国際裁判所裁定
日米の軍事的介入ではなく外交的解決を
大西 広
中国が主張する九段線
(九段線とは、地図上に九つの点線を描くことから付けられた名前。九つの点線が南シナ海の
大半を囲んでおり、この範囲に自国の権利が及ぶという主張の根拠となっています)
今次仲裁裁定の内容
フィリピンが国際仲裁裁判所に提訴した南沙諸島を中心とした海域の仲裁裁定はフィリピン側主張をほぼ認めるものとなった。
中国が南シナ海に設定した九段線には主権、管轄権、歴史的権利を主張する法的根拠がないとし、かつ、この海域に存在する島嶼はすべて「島」とは言えず、よって排他的経済水域(EEZ)や、その延長の大陸棚を設定できないとするものとなった。
南沙諸島は約50の島嶼によって成り立つが、中国が実効支配するものだけでなく、ベトナムやマレーシアや台湾が実効支配するものも含めて、それらはすべて地下水の取得など人間が自立的に生活を行なうに足る条件を有していないとして、権利は最大限周辺12?(1?約1・8㌔)の領海設定に限られるとするのがその裁定である。
また、満潮時に水没する「低潮高地」に至っては領海も設定できず、よってその造営はEEZないし大陸棚を帰属させる国の主権の侵害とされている。地下水を取得できるこの海域最大の島嶼である太平島は1946年以来台湾が(一時期を除いて)実効支配しているが、ここまで「岩」だとされたことになる。
今回は裁定の対象とはならなかったが、実のところ、この基準で判断されると日本の沖の鳥島周辺のEEZも「違法」と判断されることとなった。
中国の反応と当事国の動き
これに対し、中国は、国連海洋法の精神は当事国の交渉を優先するもので、フィリピンも1995年以来双方の話し合い解決に合意してきた、その枠組みを無視したフィリピンの提訴は無効であり、さらにまた、調停とは当事者全員が同意しない現状では始められないとの主張をしている。
また、今回の裁定は領有権問題に踏み込めないという国連海洋法の本来の制約を無視しているとも主張して、今回の裁判には参加していない。しかし、問題があっても裁定は裁定であり、中国も無視するわけにはいかないだろう。やはり、中国に裁定の尊重を求めたい。
今回、ASEAN(東南アジア諸国連合)やEU(欧州連合)は、この裁定以降も中立の立場を維持しており、国際仲裁裁判には裁定を強制する力はない。このため、結局はフィリピンと中国という当事国間の外交交渉に期待をせざるをえない状況にある。
この点では、フィリピンの新政権が2国間対話に積極的になっていることが重要である。裁定直後の7月19日、フィリピン外相は今次裁定を棚上げのうえ交渉に及びたいとの中国外相の提案を拒否したが、逆に言うと、これは交渉に向けて、すでに中比両国が動きだしたことを意味する。こうした努力の推移を見守りたい。
危惧される日米の軍事介入
しかし、こうした平和的解決の努力に混乱を持ち込みかねない動きが日米両国の側に存在する。アメリカは国連海洋法条約に未加盟であるのにもかかわらず、その条約が定める「航行の自由」を主張して軍事的挑発を繰り返しており、他方の日本もフィリピンやベトナムの軍港に艦船を寄港させ、また米軍などとの軍事演習を繰り返している。
日本について問題なのは、それが今年3月の戦争法の施行下で行われていることである。戦争法の施行の下では、この海域において米軍と中国軍が衝突をした場合、日本の海上自衛隊はすぐそのまま戦争に巻き込まれる恐れがある。
というより、そのような日米軍事協力体制が築かれたために、米軍はより攻撃的な挑発行為に及ぶ可能性が強められることとなっている。
日本の海上自衛隊の幹部学校はすでに昨年前半、その雑誌に南シナ海での戦闘行為を正当化するための論文を発表している。
また、防衛省はこの秋の国会に、フィリピンに武器供与するための法案を提出しようとしている。紛争当事国の一方への武器供与は戦争をせよと言うに等しい。
われわれ日本人が今しなければならないことは、当事国間の外交的解決を見守ることであって、軍事的介入ではない。
(協会本部副理事長)