日中友好新聞
「戦争法案」と日中関係
安保環境の「変容」をいうが
大村新一郎
戦争法案反対!(しんぶん赤旗6月14日付)
安倍内閣は「集団的自衛権の行使は憲法上できない」という歴代政権の立場を「できる」に逆転させて、日本を海外で戦争できる国にする法案=戦争法案を国会に提出、会期を9月末まで戦後最長の95日間延長するという異例のやり方をとってまで強行成立させようとしています。
「脅威論」は非現実的
その逆転の唯一の根拠とされるのが「日本を取り巻く安全保障環境の根本的な変容」(政府答弁)です。自民党の議員向けの解説資料では、「北朝鮮は核実験を繰り返し、日本全土を射程に入れたミサイルを配備」、「中国は急速に軍備を増強しつつ、頻繁に尖閣諸島の日本領海に公船を侵入させている」と説明しています(朝日新聞デジタル6月1日)。
これらが「個別的自衛権」に属する問題であることはさておき、戦後の憲法解釈を逆転させる根拠としては無理でしょう。
小さな北朝鮮の側から日本やアメリカにミサイルを撃ち込み、戦争を始めるようなことがあるでしょうか?一体何を目的に?南北間で北からの挑発や衝突があることは事実ですが、軍事的征服(武力統一)が不可能であることは、お互いに分かっています。
北東アジアの平和と安全には、日本が「専守防衛」と非核3原則を貫き、ここを非核の平和な地域にする音頭をとる外交こそが必要です。
一方、街で話をしてみると、「中国の脅威」を感じるという人は少なくありません。13億の人口、GDPは日本を抜き、もうすぐアメリカも抜こうとしている経済力、軍備強化、島嶼・領海問題での一方的で強硬な態度、などに不安を感じる人もあるようです。
しかし、中国が攻めてくる?
日本が中国の台湾、海南島、福建省などを「攻め取る」という考えが現実離れしているのと同じように、中国が沖縄、鹿児島県、長崎県などを「攻め取る」かもしれないという考えも同様に非現実的です。
世界は戦争できない方向に
戦後70年間の「安保環境の根本的変容」は、実は、どの大国も大がかりな戦争はできなくなっている、ということなのです。
尖閣諸島周辺の日本の領海に中国が巡視船を侵入させているのは問題ですが(現在のところ月に3回程度2~3隻が数時間周航)、日本の巡視船は常時巡航して実効支配しています。いずれにせよ、領土問題は話し合いで解決するべきで、ここはお互いに血を流してはならないところです。
尖閣諸島をめぐって危険なのは、むしろ、日本側の「戦争法案」が、「切れ目のない対応」を強調し、本来海上保安庁が処理すべきことが「切れ目なく」海上自衛隊の出動まで滑り込んでしまう危険です。
「戦争法案」は、戦場で戦闘ができるようにするだけでなく、日本の全体を戦時体制に移行させてしまうものです。日本国民の間に「嫌中感情」があるだけに、尖閣諸島をめぐる衝突が、このような方向に大きく利用されないように注意する必要があるでしょう。
憲法を「独裁」から守ろう
「戦争法案」が現実に狙っているのは、力の弱ったアメリカがいま困り果てている中東であり、アフリカです。そのことは、安倍首相の5月の訪米直前に日米外務・防衛相が18年ぶりに改訂した「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)にも明らかです。
それは自衛隊を、米国の求めに応じて、いつでも、どこでも、地球の裏側まで送り、兵站(最前線への補給)任務に当たらせる、というものです。「戦争法案」はこのガイドラインの国内法化ともいえます。そこにあるのはまた、米軍と自衛隊の完全な一体化の推進です。
いま安倍政権は、「憲法を無視した政治を行おうとする以上、独裁の始まり」(小林節氏)という段階に達しています。「石も叫ぶ」ような全国民的な立ち上がりで憲法を守りきるか、それが問われているのです。
「戦争させない」と訴え国会を包囲する市民たち(6月24日)