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HOME > 日中友好新聞 > 2015年6月15日号

日中友好新聞


追う者と追われる者
対立と協調の米中関係
伊藤力司

 

 

習近平主席(右)が5月17日、北京の人民大会堂でアメリカのケリー国務長官と
会談したことを報じる人民日報(5月18日付)

 


「新型の大国関係」

 


 1991年のソ連崩壊後4半世紀近く、冷戦の覇者として「唯一の超大国」として君臨してきたアメリカはアフガン戦争とイラク戦争の失敗で財政赤字国家に転落した。一方、1980年以来「改革開放」政策を展開した中国は高度成長を続け、今や世界第2の経済大国として昇竜の勢いでアメリカを追いかけている。
 中国の習近平国家主席はオバマ米大統領に「新型の大国関係を」と呼びかけているが、追う者と追われる者の関係はややこしい。
 当面のトラブルは、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島近海で中国が浅瀬を埋め立て、飛行場や港湾を建造しようとしている問題だ。中国は南シナ海の広範な海域を中国の領海だと一方的に宣言、人工島を築くことは主権の範囲内だと主張しているが、アメリカはこれを認めず空から偵察を続けてきた。
 米国防総省は5月21日、中国が人工島の「領空・領海」と主張する12?(約22㌔)以内に米軍機や艦船を進入させることもありうると宣言、中国は「必要で適切な措置を取る」と反発して情勢は一挙に緊迫した。

 

アメリカは人権上の悪行について国際社会から徹底的に
非難を受けていると報じる人民日報(5月14日付)

 


日本は米の対中戦略に奉仕

 

 追われる立場のオバマ大統領は、従来の世界戦略を見直して重心をアジア太平洋に移すというリバランス(再均衡)政策を進めているが、その眼目が中国対策であることは言うまでもない。
 安倍首相が法制化に躍起になっている集団的自衛権行使の目的は、このリバランスを助けることである。西太平洋や東シナ海の相当部分を自衛隊に任せることができれば、米軍としては南シナ海やインド洋における運用の自由度が拡大するという次第だ。
 4月末、訪米した安倍首相は、米議会演説で夏までに安保法制化を実現すると大見得を切って喝采を浴びた。オバマ大統領は、自ら安倍首相をリンカーン記念堂に案内するなどの厚遇ぶりだったが、アメリカの望む通りのお土産を持参したのだから当然だ。
 また、中国が提唱したアジア・インフラ投資銀行(AIIB)に、英国はじめ欧州主要国が参加したのに日本が参加を見合わせたのは、アメリカに義理立てしたためとみなされている。

 


切っても切れない経済関係

 

 では、リバランス政策とは中国封じ込め政策の再現か。とんでもない。米中の外務、国防の閣僚たちは毎年相手国首都を訪れて戦略・経済対話を開き、意思疎通を図っている。世界第1位と第2位の経済大国は、し烈なビジネス競争を続ける一方で、貿易・投資の面で切っても切れない関係にある。
 オバマ政権が中国を排除したTPP(環太平洋経済連携協定)を推進しているのは、中国の潜在的成長力に追い越される前にアメリカ式ルールを定着させたいからだ。それだけ中国の経済大国化を恐れており、かつ中国経済を取り込みたいわけだ。



習主席、9月訪米へ


 オバマ・習両氏は2013年以来、毎年首脳会談を開いており、今年も習主席は国連総会の開かれる9月に訪米してオバマ大統領と会談する。習主席はオバマ大統領に「新型の大国関係」の構築を迫るわけだが、要するに世界における中国の存在が拡大、強化していることを認めよということだろう。
 最近、北京からは「広い太平洋は米中2大国が住み分けられる」といったフレーズが聞こえてくる。これまではアメリカが太平洋全域を支配してきたが、これからは大国化した中国と分割支配しようという意思表示だろう。
 中国は過去30年の高度成長下、国防費を幾何級数的に増やし、陸海空宇宙で軍拡を進めてきた。だが核戦力、空海軍力でアメリカにはまだとてもかなわない。
 しかし、米中双方が、核ミサイルを装備してにらみ合っている現状を冷静に観察すれば、米中が本格戦争を戦うことは絶対にあり得ない。追う者と追われる者の関係はややこしい。

(ジャーナリスト)

 

 


 


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