日中友好新聞
歴史を学ぶ運動広げよう
戦後70年の課題
石山久男さんに聞く
日中両国の研究者によって昨年10月出版された
『「日中歴史共同研究」報告書』(全2巻・勉誠出版)
今年は戦後70年。改めて日本の近現代史を振り返るとともに、歴史教科書で侵略の史実を消し去ろうとする策動に歯止めをかける必要があります。こうした問題点について、石山久男さん(歴史教育者協議会前委員長)に聞きました。
(編集部)
今年は「戦後70年」とよくいわれます。しかし日本のこの70年はそう簡単に割り切れるものではありません。
たしかに日本本土はこの70年間、直接戦場になることはなく「戦後」を続けてきました。しかし沖縄は限りなく戦場に近い体験を重ねなければなりませんでしたし、近隣の朝鮮半島もインドシナ半島も百万単位の犠牲者を出す激しい戦場になりました。
それを横目で見ながら、日本は高度成長をとげ経済大国になりましたが、その延長線上で「構造改革」を実行し、いま貧困大国・嫌中嫌韓大国・軍事大国にゆきつこうとしています。
歪んだ歴史認識の根源は?
この「戦後70年」の日本の歩みの中で、韓国との国交樹立まで戦後20年、中国とは27年、沖縄返還まで27年かかり、そして朝鮮民主主義人民共和国との国交は70年たっても樹立できていません。世界の中でも極めて異常なこの簡単な事実の中に、戦後日本が解決できなかった問題がいかに大きかったかが端的に示されています。
それは結局のところ、侵略戦争と植民地支配の事実を率直に認め、それに対する可能な限りの戦後処理をすることができなかったところに原因があるのですが、そうなったのにはまた理由があります。
敗戦後の日本を事実上単独占領したアメリカは、戦後アジアでの覇権を握るために、アメリカの言うことをよく聞く、日本の天皇を頂点とする旧支配層をそのまま政権の座につけました。そこでアメリカは戦争を遂行した旧支配層の戦争責任を基本的に免罪したのです。
そのために、戦争の事実が全体として正しく国民に知らされることになりませんでした。そのため戦争への反省が日本社会全体として根本的に行われることにならず、同時に、民主主義の徹底という点でも不十分さを残すことになりました。
戦後史の検証が重要
ですから、戦後70年を迎える今、改めて戦争の事実を率直かつ真摯に見つめ直すことが重要なのはいうまでもありません。同時に私は、戦後日本の政府と国民が過去の戦争の問題にどう向き合い、どう処理してきたか、あるいはしてこなかったかを知ることがとても大事だと思うのです。
なぜなら、それが過去の戦争と現在および未来とをつなぐ環になるからです。この環が抜けてしまうと、過去の戦争が単に過ぎ去った問題、今とは関係のない問題として認識されてしまう可能性があるからです。
それは、いわば戦後史ということになるわけですが、戦後日本の歩みを世界の歩みとつなぎ、あるいは比較しながら学べば、戦争の歴史を総括し日本の未来を考えるための現在の課題が見えてくるはずです。
しかし、戦後史は戦争の歴史以上に、学校でも社会でも学ばれていません。いま大人も子どもも、戦争を知っている世代も知らない世代も、こういう学びが求められているのではないでしょうか。
教科書検定制度の改悪
ところが逆に、安倍政権の「教育再生」と称する改革の中で、教科書検定制度が改悪され、近現代史の真実が教科書から消されて安倍政権の主張通りの教科書が作られようとしています。
たとえば、今年4月から使われる新しい小学校の歴史教科書では、石川啄木が韓国併合を批判した歌「地図の上 朝鮮国にくろぐろと 墨をぬりつつ秋風をきく」と、その説明を削り啄木の写真を消して小村寿太郎(編集部注=明治時代、日本の侵略政策を推進した外交官)の写真に変えてしまいました。
一方、竹島を韓国が不法に占拠していると、いままで書いていなかった小学校教科書にまで書かせて、隣国との対立をあおっています。
また、国旗国歌の強制という戦後史の問題を書いた高校日本史教科書を、学校が希望しても都府県教育委員会が採択させないということも起こっています。
今年は中学校教科書の採択が各市区町村教育委員会で行われ、戦争美化の育鵬社・自由社版教科書を多数採択させようと安倍政権と自民党がねらっています。それを阻止するとともに、歴史を歪曲する安倍首相の新談話などを許さず、安倍政権をさらに追いつめ、戦争の歴史と戦後の歴史をきちんと学ぶ運動を改めて広げようではありませんか。