日中友好新聞
ハルビンで日中民間団体が設立に合意
遺棄毒ガス被害者支援基金
南 典男
10月28日、中国の人権発展基金会と日本の毒ガス被害弁護団連絡会議は、「毒ガス被害者支援平和基金」を設立することで合意しました。
10月28日にハルビン市で行われたシンポジウム(左から2人目が南弁護士・写真提供=民医連))
深刻な被害の広がり
旧日本軍が遺棄した毒ガス兵器によって、戦後、罪のない中国の多くの市民や子どもたちに被害が生じています。
毒ガス(イペリットとルイサイトの混合剤)被害は、皮膚の糜(び)爛(らん)はもちろん、呼吸器、内臓、神経など全身に症状が及び、治癒することは難しく、時を経ると疾患の進行あるいは遅発性の疾患がみられ、深刻な事態に至ることが多く、その結果、働けない、就学・就職・結婚ができないなど、生活が困難となり、被害者本人はもとより家族の人生にも重大な影響をもたらしています。
被害者たちは、人生にとってとても大切な、健康、財産、つながりを失ってしまったのです。
日本の市民と弁護士は、1996年から被害者支援の裁判を20年近くにわたり行い(残念ながら最高裁は上告棄却決定)ましたが、さらに、日本の市民と医師は、旧日本軍遺棄化学兵器被害者の生命と健康のために、6回にわたって日中共同検診の取り組みを行いました。
しかし、被害者たちは、今もなお、生きることに大きな困難を抱えているばかりか、年を経るに従い健康被害が悪化しており、緊急に被害者のための医療・生活支援が必要となっています。
日本政府動かし解決を!
そこで、中国人権発展基金会と毒ガス被害弁護団連絡会議は、被害者たちの人権と正義の実現、日本と中国の平和と友好に寄与することを願い、人道的見地から、中国の民間と日本の民間が協力して「毒ガス被害者支援平和基金」の設立に向け努力することを誓い、合意書を締結しました。
合意の内容は、中国側は年内を目途に、「毒ガス被害者支援平和基金」設立の許可を得、寄付を募集し、日本側は基金活動の実績をもとに日本政府、関係企業などに対し、同基金に寄付などの支援を行うよう働きかけることとしています。
同基金は、被害者の人権回復にとって大きな意味がありますが、同時に、同基金だけでは毒ガス被害者たちの全面的かつ抜本的な医療・生活支援を行うことは困難です。そこで、日本側は、基金活動をてこに日本政府の政治決断を引き出し、全面的な解決に導くことを目指しています。
黒龍江省ハルビン市で行われた調印式とシンポジウムには、訪中し検診活動を行なった医師、技師、弁護士のほか中国側も遺棄毒ガス被害者、弁護士、医師など約120人が参加し、中央電視台をはじめ多くのマスコミが取材し報道しました。
関係改善に民間の力発揮
来年は戦後70年です。にもかかわらず、歴史を歪曲する動きや安倍首相が靖国神社を参拝するなど、日中関係は厳しい状況にあります。今回の基金設立の合意は、日中関係を民の力で改善に向かわせようとするものであり、意義深いものだったと思います。
戦後50年の節目に、村山首相(当時)は「日本は、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」と述べています。
戦後70年の節目に、私たち弁護団は、この基金活動を通じて、被害者たちの人間の尊厳の回復を少しでも実現できるよう尽力するとともに、排他的ナショナリズムを乗り越える国民運動の一端を担って日中関係の信頼を築き上げていきたいと思います。
(毒ガス被害弁護団連絡会議共同代表)
民医連が現地で検診活動
遺棄毒ガス被害者に検診を行なう(写真提供=民医連)
全日本民主医療機関連合会(民医連)の代表団16人は、10月24日から29日までハルビンを訪問、うち3日間、日本軍遺棄毒ガス被害者の検診活動を行いました。
これには中国側の医師3人、看護師数人も参加、被害者29人を診察し各種検査を実施、希望者には現地の病院で投薬も行ないました。
被害者からの聞き取りでは、「みじめに感じる」「自殺を考える」などの回答が多く、ほとんどの人がPTSD(心的外傷後ストレス障害)の該当者でした。
代表団は「今後は中国側の医師と情報共有をしっかり行ない、中国での診断・治療に生かしていく必要がある」と総括しています。
民医連の毒ガス被害者に対する検診は06年以来今回で6回目。今回の支援基金設立の調印式は、この期間中に行なわれました。