日中友好新聞
2013年11月15日号1面
「新たな大国関係」めざす中国
米は対中“封じ込め”放棄
伊藤 力司
6月7日、中米首脳会談で習近平主席を案内するオバマ大統領(『瞭望』誌第1527期)
米中関係の新局面を見る
歴史の変遷、主役は中国
米ソ冷戦終結後早くも20年余、「唯一の超大国」となった米国がアフガニスタンとイラクで無益な戦争をしたため衰退している中、30余年前から「改革開放」路線に踏み切った中国は、ついに日本を抜いて世界第2の経済大国に成長した。その結果われわれは、太平洋をめぐる米中の新たな関係を目前にすることになった。
1840年のアヘン戦争に敗北した中国(清国)は、当時も「世界一の大国」だったにもかかわらず、近代兵器を持った西欧列強に浸食された。しかも20世紀前半は、明治維新を経て欧米帝国主義の真似をした日本に侵略されるという屈辱を体験した。
1949年の新中国誕生は中華民族の誇りを甦(よみがえ)らせた。「東風は西風を圧する」(毛沢東)として、冷戦に立ち向かったが、ベトナム戦争を通じた60年代の中ソ対決を経て、70年代の米中接近(米の台湾放棄)という時代の変遷の主役を担ったのは中国だった。
異例の長時間首脳会談
中国はアヘン戦争以来170年余もの、長い長い屈辱の歳月を経てようやく世界の大国としての地位を回復した。さる6月、米カリフォルニア州で習近平・中国国家主席とオバマ米大統領との2日間にわたる長時間の会談が行われたことは記憶に新しい。習主席はここで、オバマ大統領に「新しいスタイルの2大国関係」をつくろうと訴えたという。
オバマ大統領が習主席との長時間の会談に応じたのは、アフガン、イラク戦争と2008年のリーマン・ショックで疲弊したアメリカ経済を建て直さなければならないという立場からであろう。
1兆ドル超(100兆円超)ものアメリカ国債最大の買い手は中国人民銀行である。米国の貿易取引の最大の相手も中国である。旭日の勢いの中国経済に食い込まなければ米経済の再生はないのだ。
だからオバマ政権は、ノーベル平和賞受賞者の劉曉波氏の投獄や盲目の人権活動家、陳光誠氏に対する迫害など、中国が世界普遍の人権、民主を侵害していることを批判しながらも、米中の外相・防衛相による「戦略・経済対話」(2+2)を続けざるを得ない。そのアヤは習近平政権に見すかされているだろう。
安倍歴史観に米も反発
さて問題は、「右翼・軍国主義者」であることを“自認”した安倍晋三首相である。安倍首相は、米側の「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲」との言質を頼りに、中国との対決も辞さない姿勢を強めようとしている。
しかし米国は、1972年沖縄返還のいきさつから「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲」とは言うものの、中国が本当に尖閣に攻めてきたら米軍が介入することはあり得ないだろう。一方、中国が本当に尖閣を占領しようと攻めてくることも、当面はあり得ない。
安倍首相は9月末、国連総会出席のため訪米したが、この時もオバマ大統領と会談できなかった。米議会与野党の対立で10月から始まる米予算編成が立ち往生していたため、大統領の日程が超多忙だったということもあるが、安倍氏の歴史観に対するオバマ氏の反発がありそうだ。
10月初め、日米外相・防衛相による「2+2協議」で来日したケリー国務長官とヘーゲル国防長官は、靖国神社でなくて千鳥が淵の国立墓苑墓地を弔問した。このことは安倍政権の歴史観が、中国や韓国はもとより、安倍首相が最も頼りにしているであろうオバマ政権からも反発されていることを示していよう。
オバマ政権の米国にとって、中国はまだ負けられない覇権争いの相手ではあるが、「封じ込め」(containment)の対象ではなく、安倍首相の思惑とは異なっている。むしろ中国は「約束ごと」(engagement)の相手とみなされているのである。
(ジャーナリスト)