日中友好協会(日本中国友好協会)

日本中国友好協会
〒101-0065
東京都千代田区西神田2-4-1 東方学会ビル3F
Tel:03(3234)4700
Fax:03(3234)4703

HOME > 日中友好新聞 > 2013年8月15日号

日中友好新聞

2013年8月15日号1面
漫画家 村上もとかさんに聞く
「フイチン再見(ツァイチェン)!」の原点
漫画家・上田トシコとその時代

「ハルビンにも行きました」と村上もとかさん(武蔵野大学で)
「ハルビンにも行きました」と村上もとかさん(武蔵野大学で)

 

 戦後に中国(旧満州)から引き揚げてきた女流漫画家上田トシコの人生がいま、漫画「フイチン再見(ツァイチェン)!」となって連載中(小学館『ビッグコミックオリジナル』)。描くのはテレビドラマにもなった「JIN―仁―」の原作者で漫画家の村上もとかさん。なぜ今の時代に上田トシコを描くのか。村上もとかさんに聞きました。

 

中国人の女の子を主人公にした上田トシコの「フイチンさん」との出会いは

 

 小学生の時に近所のお姉さんの少女誌で見ました。「フイチンさん」は明るくて元気で、太陽に向かってさん然と輝くひまわりのようでしたね。跳びはねるようにいつも動いて生き生きしていました。

 

上田トシコさんとお会いになりましたか

 

 望月あきら先生のアシスタントをしていた時、先生の快気祝いの場で、上田さんが突然現われて、よくなって良かったわねと言ってさっと消えたのです。宝塚の男役スターみたいな感じでかっこよかったですね。
  もう一度は「龍(ロン)―RON―」の連載中、満州のことを取材させていただいてそのお話の面白さに聞きほれました。お聞きしながらこの人の貴重な話はいつか漫画にしたいと思ったのです。編集者に今の連載が終わったら上田トシコ先生を描きたいと言ったのです。いまから8年前のことですね。

 

その時の心境は

 

 「龍―RON―」を16年、それとだぶりながら「JIN―仁―」を10年描き続けて2年お休みをいただいた時、自分はなぜ漫画家になろうと思ったのか、なぜ漫画を描いてきたのか、これからもし漫画を描くとしたら何を目的に漫画を描くのかともう一度見つめたかった。上田先生は僕らにとって大先輩で、そのへんをしっかり見つめておられた方なので、テーマを練ってこの作品に去年から作業に入ったのです。

 

「龍―RON―」「JIN―仁―」の女性が魅力的でしたが、男が主人公でした。今回、初めて女性を主人公にして苦心されたことは

 

 「龍―RON―」「JIN―仁―」は黒く重たくリアルに描きこんだのですが、上田さんの絵はすごくやわらかくて白い感じです。ですから、私もシンプルな線で黒くべた塗りしないで明るいトーンの動きのある絵にしようと工夫しています。

 

「龍―RON―」では上海、“満州”に生きる男女を描き、今度は上田トシコによって“満州”を描くのは

 

 正直いって「フイチンさん」が、僕の記憶で満州を意識した一番最初でした。あの漫画のなかに出てくるハルビンという街ってどこにあるのか、うちにあった小学生百科辞典で調べたんです。戦前のものだったから、日本だけでなく朝鮮も台湾も日本領として赤く塗ってある。満州国はピンク色になっている。このピンク色の国ってなんだろうと。
 映画の美術をしていた父は戦前朝鮮にいたんですが、祖父は満州で教育者として青年学校を開いていたなんて話を聞いたりして日本と中国とはいまでもずっと続いているものがあると知ったのです。

 

『フイチン再見(ツァイチェン)!』をいま描くことは

 

 “満州”は近くにあるんだけれどもう二度とない失われた世界です。これを漫画で再現し、失われたものを通して現代を得るという意味です。フイチンさんはちょっと違った現代史だと思うんです。
 ハルビンで育った上田先生はあの時代の女性としてモダンで冒険的な考えをもって一種独特の世界を生きてきた。いまはない世界で育てられた魂がある。“満州”育ちの漫画家が多いのも、漫画の中にその漫画家の育まれた“満州”の魂というのが流れこんでいるのではないでしょうか。
 「龍―RON―」は俯瞰して時代を描きましたが、この作品では一生懸命に生きた一人にしぼって漫画家の愛情あふれた人間とその時代を描きたい。そこにいた人たちが(戦後)闘ってきたから、いまこの時代につながっているんだよ、ということを、人にはなぜ漫画が必要なのかまで踏み込んで、女性漫画家をとらえていきます。
(聞き手・石子順/企画・エクラアニマル)


村上もとか(漫画家)
1951年 東京都世田谷生まれ
1972年 集英社少年ジャンプ「燃えて走れ」でデビュー
1981年 小学館少年サンデー「六三四の剣」連載テレビアニメ化され剣道ブームが起きる
1991年 小学館ビッグコミックオリジナル「龍―RON―」連載
1998年 文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞(龍―RON―)
2000年 集英社スーパージャンプ「JIN―仁―」連載、(TBSドラマ化 宝塚雪組上演)
2011年 手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞(JIN―仁―)
2013年 小学館ビッグコミックオリジナル「フイチン再見!」連載

 

上田トシコ(漫画家)
1917年 東京生まれ、生後40日で満州ハルビンへ
1935年 松本かつぢに師事
1942年 満州ハルビンに戻り、南満州鉄道に勤務、ハルビン日日新聞に転職して終戦を迎える
1946年 日本に帰国
1951年 集英社少女ブック「ぼくちゃん」連載
1957年 講談社少女クラブ「フイチンさん」連載
1973年 婦人之友社明日の友「あこバアチャン」連載
2003年 日本漫画家協会文部科学大臣賞受賞
       「フイチンさん」エクラアニマルがアニメ化
2008年 3月8日永眠

[一覧に戻る]