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日中友好新聞

2013年4月25日号1面
今こそ東アジア市民の歴史対話を
日中韓共同編集『新しい東アジア近現代史』発行の意義
笠原 十九司

『未来をひらく歴史』05年に発行

 

 私も日本側代表委員の一人として編集に参加した日中韓3国共同編集『未来をひらく歴史』(高文研)は、「東アジアに平和の共同体をつくるためには、その前提として歴史認識の共有が不可欠です。それはもちろん若い人たちだけの課題ではありません。歴史認識を共有することへの展望は、東アジアに生きる市民が、侵略戦争と植民地支配の歴史を事実もとづいて学び、過去を克服するための対話と討論を重ねることを通じて、確実に切り開かれます」(同書あとがき)という目的を掲げて05年5月に日中韓3国で同時刊行された。
 同書は、3国の多くの市民に読まれ、日本では9万部、中国では13万部、韓国では6万部が発行されている。日本での読者は圧倒的に市民で、同書をテキストにした市民学習会も全国に生まれ、そのいくつかは現在も続けられている。

 

歴史認識の共有めざした『新書』の発行

 

写真1 日本中国友好協会
第29回日中韓3国共同歴史教材編纂会議
筆者は前列中央(2010年11月22日〜23日ソウルにて)

 日中韓3国共同歴史編纂委員会は、『未来をひらく歴史』を東アジア歴史教育対話の終わりではなく、新しい歴史対話の始まりとして、同書よりもより高い次元の「東アジアの歴史認識の共有」をめざして『新書』を発行することで合意した。
 そして、06年から共同編集作業に入り、合計14回の編集会議、最終段階での5回の代表者会議を経て、『新しい東アジアの近現代史』(上巻・下巻)(日本版は日本評論社)を発行した。
 『新書』の上巻では、日中韓3国の国際関係の変動を、世界史の流れと関連させて体系的にとらえ、東アジア全体の大きな流れを、国際関係の変動に重点をおいて叙述した。
 中国を中心とする伝統的な国際秩序が崩れ、日本がイニシアチブを握っていく時期、日本の侵略が植民地支配と戦争につながり、これに対して韓国・中国で民族運動が起きる時期、第二次世界大戦後、東アジアに冷戦体制が形成され、やがてこれが変容・解体して、東アジア共同体の形成が展望される現在まで、東アジア3国をめぐる国際関係史を通観した。
 『新書』の下巻では、東アジアの国際関係の中で生きる民衆の生活と交流を主題別に扱い、民衆の具体的な姿を浮かび上がらせるようにした。
 【憲法】【都市化】【鉄道】【移民と留学】【家族とジェンダー】【学校教育】【メディア】【戦争と民衆】のテーマを設定して、制度や文物が民衆生活にどのような影響を及ぼしたのかを、3国を比較しながら、また、3国民衆の交流に着目しながら叙述した。
 終章に〈過去を克服し未来へ向かう〉を設け、「平和な東アジア共同体」の形成をめざして「歴史問題の障害を克服し」「国境を越える歴史認識の促進」のための課題と展望を示した。

 

「逆風現象」を阻止・克服するために

 

 05年に『未来をひらく歴史』を刊行した時に比べ、現在は日中および日韓の友好交流と歴史対話の雰囲気は後退している。日中関係は尖閣諸島(中国では釣魚島)、日韓関係は竹島(韓国では独島)をめぐる領土ナショナリズムが吹き荒れ、これに北朝鮮の核兵器開発とミサイル発射問題が加わり、東アジアの国際関係は最も険悪な状況にある。
 とりわけ、尖閣諸島問題の対立は、戦後史において初めて、日中の軍事衝突の可能性さえ生ずるに至っている。
 このように厳しい現状においてこそ、日中韓3国における『新書』の発行の意義は大きい。しかし、日本のメディア全体が右傾化傾向にあり、特に、右翼・保守マスメディアによる狭隘なナショナリズムの煽動が影響を強め、東アジアの交流を阻害している。
 こうした「逆風現象」中で、自覚した3国の市民がどのように歴史対話、歴史教科書対話を継続、発展させていくかが重要な課題になっている。
(都留文科大学名誉教授)

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