日中友好新聞
2013年4月15日号1面
「お金じゃない人間の尊厳こそ」
中国人実習生が訴え
長崎地裁で奴隷労働を断罪
柿森紀和子
長崎県島原市の縫製工場で働いていた中国人実習生5人の損害賠償請求等訴訟に対し3月4日長崎地裁は、元経営者夫婦、協同組合とその代表者、日本側派遣ブローカーとその代表者に対し、人格権を侵害したとして連帯して総額1000万円を超える損害賠償金を支払うよう命じた。
初めてブローカーの共同不法行為責任を認め、破産免責を許さず個人の賠償責任を認め、旅券、預金通帳の取り上げを人格権等の侵害として不法行為と認めるなど、全面勝利といえる内容だった。
経営側の理屈砕く判決
「勝訴」を手に喜びをかみしめる元実習生たち
外国人実習生をめぐる裁判は全国で約30件。「家族のように接していた」「残業は実習生から望んだ」「旅券は預かったが不自由はない」。被告側は常にこのような言い逃れをする。
しかし、判決は「原告らは被告会社で就労する以外、日本で適法に生活することは困難な状況にあり、不満があったとしても、それを拒否することが困難な状況にあった」と認めた。
多くの支援が支えに
社長の暴力がきっかけで2009年9月、長崎県労連に相談がきた。
1カ月180時間を超える残業をし、残業代が時給300〜400円という待遇を、「3年すれば帰国できるから」とひたすら我慢してきた彼女たちは、労働組合加入後、会社などの脅迫にも屈せず、自らの人権と尊厳を守るたたかいに立ち上り、2010年2月、長崎地裁に提訴。
会社倒産で、裁判に勝っても請求している未払い賃金などの回収が困難になったが、「お金はとれなくても自分たちの尊厳と、日本にいる実習生の待遇改善のために裁判を最後までたたかう」と、原告たちの決意はゆるがなかった。
5人の原告は帰国後次々に結婚し、それぞれ男子を出産。2012年5月、原告本人尋問で法廷に立つため、生後1年に満たない子どもを置いて来日した2人の原告は、集まった支援者に述べた。
「私たちは、裁判を始めたときからお金をもらうつもりはなかった。後輩の実習生に私たちのようなひどい待遇を受けさせないために裁判を続けている。最後までやってぜひ勝利したい。私たちは最初からそう思っていたのではない。多くの支援者のみなさんが支えてくれているので、こんな気持ちになった」
逃げ出すこともできない
2010年7月の入管法改正で、研修生という身分はなくなり、労働者として処遇される技能実習生に一本化された。しかし、奴隷労働の仕組みは変わっておらず、むしろ、「これまで以上に深く定着していくおそれがある」と熊本学園大学の遠藤隆久教授は言う(学習の友社刊『外国人実習生 差別・抑圧・搾取のシステム』より)。
長崎地裁の判決から10日後、広島のカキ養殖会社で中国人実習生が社長や従業員を殺傷する痛ましい事件が起こった。過酷な労働環境や人間関係のトラブルが原因などと報道されているが、外国人技能実習生制度の全容が取り上げられることはほとんどない。
「職場を辞める自由、転職の自由がなく、人間としての権利をはく奪された奴隷的状況である」とは誰も言わない。
外国人実習生が日本の産業にとって不可欠の存在となっているのなら、人間として対等な雇用関係の新制度を早急につくるべきだ。
島原の事件は被告の控訴でたたかいは福岡高裁へ移る。後戻りさせない運動をつくっていきたい。
(長崎県労働組合総連合)
正義貫く取り組みに国境はなかった
萩谷瑞夫
その日、原告の李娜娜と王麗琴を先頭に法廷に入り判決を待った。この間静寂そのもの、傍聴支援の人たちに緊張が走る。
裁判長が淡々と読み上げる判決主文は被告…、被告…、…、…、…は原告…に、連帯して225万円…」と金額を示す声、「アッ勝利判決だ、やはり」と確信できた。支援者、報道関係者の視線が2人の女性に注がれる。
報告集会では、割れるような拍手に包まれ、満面の笑みで「中国に帰って、日本に来れなかった仲間の3人や父母、友人に嬉しい報告ができる。守る会や弁護士の方々のおかげです。謝謝」と声を弾ませたことが印象深い。
私たち支援者の誰もが恐れたことは「2人を落胆した姿で帰国させること」だった。この判決でそれが回避でき、また正義を守る取り組みに国境がないことを司法の公正な判断とともに示された意義は大きい。
(協会長崎支部事務局長)