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日中友好新聞

2012年11月25日号1面
「人のあかし〜ある憲兵の記録から」
京浜協同劇団公演
“侵略戦争と人間”赤裸々に描く

 この9月以来吹き荒れた「尖閣諸島」問題。その大きな伏線に「中国侵略戦争」に対する歴代日本政府の無反省と無責任な対応の問題があります。それに拍車をかけるように石原慎太郎前東京都知事、橋下徹大阪市長、河村たかし名古屋市長や、「靖国参拝」を強行した安部晋三自民党総裁など、公然と歴史を逆行させる動きが強まっています。
 これと対照的に、かつて中国で軍人として加害の先頭に立った人びとの心の底からの「反省と謝罪」の証言が注目を集めています。京浜協同劇団が公演する「人のあかし〜ある憲兵の記録から」はその「証言」を真っ向から取り上げたもので、大きな期待が集まっています。

 

戦争責任と重なる「震災」「原発」への対応

 

写真1 京浜協同劇団

村人と話す元憲兵・渡辺正一役の護柔一さん(左から2人目)の舞台げいこ
(提供=京浜協同劇団)

 脚本を書いた和田庸子、主役の渡部正一役の護柔一(63)、戦犯を演ずる高橋雄一郎(38)、斉藤成郎(22)、通訳役の張民(37)さんらに話を聞きました。
 冒頭に「いまこの劇を公演する目的は」とズバリ切り込んでみました。
 和田さんは「東日本大震災・原発に対する日本政府と東京電力の無責任さは目に余ります。これだけの国民の苦難を前にして、誰も真剣に責任を取ろうとしない。そこにアジア・太平洋戦争の日本の戦争責任に対する態度と共通のものを感じたのです。あの戦争をもう一度振り返ることでいまの問題を考えてみようと思ったのです」。
 その責任の取り方として、特に「憲兵で戦犯だった土屋芳雄さんが、単に国の責任を追及するだけでなく、『自分にも責任があった』と言い続け、それを行動に移して生涯かけてそれを貫いた真摯な生き様に深く感動しました」と続けました。

 

なぜ「鬼から人間」に戻ったのか

 

 護柔さんは「『ある憲兵の記録』を読んで、どうして人間はこんなに変われるものかという強い印象を受け、60年前の中国の撫順戦犯管理所での出来事を勉強し、『鬼から人間に戻った』この人物をぜひ演じてみたいと思うようになった」といいます。
 高橋さんも「台本を読み、日中友好協会制作の『証言―侵略戦争』を見てすごいショックを受けました。特に戦犯の永富浩喜さんが、裁判で彼に殺害された遺族の追及を受けるシーンには言葉も出ませんでした」と、重い表情で話します。
 斉藤さんは「あまりに重いテーマで、初めはいまの自分には遠い問題だと積極的に受け止められませんでした。しかし、最初は人を殺した事実に目を塞ぎ、逃げ回っていた戦犯が最後は認罪し、きちんとそれを見つめるようになった過程を知って、いまの時代にも通ずる問題だと思い、正面から向き合わなければと考えが変わりました」と話します。
 中国人の張民さんは「小さい頃から日本の侵略の教育は受けてきましたが、実際に殺害した本人の生々しい証言を聞いてその事実の重さに心が沈みました」と、それぞれにこの芝居に立ち向かう心境を語ります。

 

「人のあかし」とは人間が人間であること

 

 和田さんは「一番強調したいことは、『人間は変わっていくものだ。どう変わっていったのか』を描くことでした。いかに残虐な人間でも、根っこには全うな気持ちをもっている。撫順での教育を受けて、戦犯たちが庶民の心を取り戻した。戦犯全部が土屋さんたちと同じような行動をしたわけではありませんが、誰でも変わることができることを出したかった。題名の『人のあかし』とは『人間が人間であるとはなにか』という意味です」と説明します。
 護柔さんも「残虐の限りを尽くした戦犯に対して、管理所の職員が『自分たちは粟しか食べないのに、なぜシャリ(白米)まで食べさせるのか』と管理所長に食ってかかるシーンがあります。所長が、職員たちの心境を読み取りながらも、階級的観点に立って、『真人間にする努力を説く』場面には涙しました」と、話します。

 

「撫順の奇蹟」を受け継ぐ人びと

 

 1000人もの戦犯を「鬼から人間」に戻した「撫順の奇蹟を受け継ぐ会」が2002年に結成され、その事実を知らせる活動を続けています。
 代表の姫田光義さん(中央大学名誉教授)は「人のあかし」公演について、「『撫順の奇蹟』とは日中両国の人びとが平和と日中友好を願って織り成す人間讃歌です。それが舞台化されたのです。『再生の大地』合唱団は歌い継ぎ、この劇団は演じ継ぐ。これからはますます『受け継ぐ』ことが大事になっています」と、期待を寄せています。

 

「尖閣」で厳しい時だからこそ

 

 「尖閣諸島問題で大揺れしているなかでこの芝居を公演すること」について聞くと、和田さんは「反対の意見もありました。しかし、こうした緊迫した情勢の中だからこそ『劇団が試される』と一致しました」。
 そして「この芝居を過去のものとしてとらえるのでなく、いま私たちに突きつけられている現実の問題と結んで受け止めてもらえれば、この上ない喜びです」と締めくくりました。(宣)

 

あらすじ:人が鬼になり、鬼が人間に戻った
 これは、約70年前に中国で日本人憲兵として生きた男の壮絶な懺悔の記録である。土屋芳雄さんは、戦場で「鬼」となり、撫順戦犯管理所での6年間を経て、「鬼」から「人間」に戻った。帰国後「オレは中国でどんな悪いことをしてきたか」と、証言活動を始める。亡くなるまで5000枚もの手記を書き続けた。そして、自らの手で殺害した中国人の遺族を訪ね心から謝罪した。その半生は、戦争責任とは何か、本当の謝罪とは何かを、私たちに問いかけてくる。

 

公演日程 2012年11月30日(金)午後2時・午後7時、12月1日(土)午後2時・午後7時、12月2日(日)午後2時、12月7日(金)午後2時・午後7時、12月8日(土)午後2時・午後7時、12月9日(日)午後2時
会場 スペース京浜(JR南武線「鹿島田」駅徒歩15分、バス川崎駅西口ターミナル86番・87番のりば 川73番・74番系統「古市場交番前」下車徒歩2分、武蔵小杉駅バスターミナル4番のりば 川74系統「古市場交番前」下車徒歩2分
チケット 前売り一般2900円(70歳以上2200円、学生1500円[当日券は500円増])
チケット専用電話 TEL:090(9343)2631 予約制(毎回限定110席)
劇団連絡先 TEL:044(511)4951 FAX:044(533)6694

 

京浜協同劇団とは?
 職場や地域の3集団が合同して1959年(昭和34年)に結成した地域劇団。50年間休むことなく140本の作品を上演。
 主な作品は、「金冠のイエス」「麦の穂のように」「ミスター・チムニー!天空百三十尺の男」など。
 川崎市どが主催する「かわさき演劇まつり」には30年間中心劇団として出演。和太鼓、腹話術など出前公演も行なっています。観客の皆さんからのカンパ等で建設された川崎市幸区に自前の稽古場兼劇場「スペース京浜」があります。

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