日中友好新聞
2012年10月25日号1面
北京で見る「尖閣」問題
良識、理性の声は少数ではない
松木研介
9月の日本政府による尖閣3島「国有化」決定に対し、中国政府が厳しい対抗措置をとり、同時に大規模な「反日」デモが全国的に展開され、各地で暴力的破壊行動まで伴うに至り、日中関係は国交正常化以来、最悪の状態を迎えています。しかし、中国国内では、暴力行為を批判し、冷静な対応を求める市民の声やメディアの論評も少なからず生まれています。こうした状況について、北京在住の松木研介さんにレポートを寄せてもらいました。(編集部)
いま中国で、「理性愛国 反対暴力」というフレーズが話題になっています。
9月中旬、日本の尖閣諸島(中国名・釣魚島)国有化に抗議する中国各地の「反日デモ」の際、上海などで学生を中心としたグループがこの言葉を書いた紙を手に集まりました。
デモ隊が投げたペットボトルなどを片づけた写真も紹介されていました。
「暴力反対」の声広がる
10月1日午後3時の天安門前広場。北京秋天のもと、「平和・愛国」という言葉がふさわしい雰囲気でした(写真は筆者提供)
9月16日、北京の日本大使館前。万単位のデモ隊からは何百というペットボトルが大使館に向け投げつけられます。デモの反対側歩道で、「理性愛国…」の紙を掲げて歩いている若い中国男性を見かけました。
「勇気がありますね。学生ですか」と言いたかったのですが、どこかから「日本人だ!」という声が飛んでは身に危険があると思い、私には問う「勇気」がありませんでした。
このグループの実態はまだよく分かりませんが、一部の暴力、破壊、略奪デモを厳しく見つめる中国の世論をかなり反映していると思えました。
9月11日から始まったデモの7日目。中国共産党機関紙・人民日報17日付は「同胞の財産を傷つけ、中国に住む日本人に当たり散らすことはあってはならない」と指摘。
中国共産主義青年団のサイト「中国青年網」も同日、「デモが暴力化するのは真の愛国ではなく、非愛国だ。中国社会に動揺をもたらす」と批判。「愛国は理性が必要で、他人を尊重することが基礎だ」と訴えました。
人民日報社が主管する国際情報紙・環球時報もやはり17日付で世論調査結果を掲載。「武力で解決」が27.4%ありましたが、「平和的な話し合いで解決が可能」と回答したのは、それをはるかに上回る47.7%でした。中国のミニブログ「微博」にも「われわれは暴力の扇動を制止する勇気をもつ必要がある」「日本は中国人が学ぶ価値のある国で、われわれが妄動すれば損をするのは自分自身だ」という書きこみが現れました。
中国政府は当初、「国有化の誤った決定を取り消すことを断固要求」(9月12日、洪磊・外務省副報道局長)の一本やりでした。その後は徐々に表現は変わり、「国有化取り消せ」とのストレートな表現は姿を消しました。
日本政府の頑なな態度
日本大使館近くの日本料理店(10月3日)。国慶節中なので店先には中国国旗。9月15〜18日は襲撃を避けるため店頭に「魚釣島は中国領だ」という横断幕を掲げたうえで休業(写真は筆者提供)
9月27日。国連総会での楊潔※(※=竹冠に厂に虎)外相の演説は、「中国領土の主権を損なう一切の行動をやめよ」「話し合いで解決するという軌道に戻せ」という2本立てになっています。
9月中旬、ある中国外務省高官は「双方の主張がぶつかったままだが、中国はどこを落とし所と考えているのか」について、「やはり元の『棚上げ』状態に戻すことだろう」と語ったといいます。
この中日話し合いの「突破口」になるかどうかで注目されているのが、「日中間に領土問題は存在しない」という日本政府の頑なな態度です。現実を見ないでドグマに固執する限り、話し合いの道は開けません。
日本共産党の志位和夫委員長が9月20日、「外交交渉による尖閣諸島問題の解決を」との談話を発表しました。日本政府に「領土に関わる紛争が存在することを正面から認めよ」「日本の領有の正当性を堂々と主張せよ」と両面を要求しているところがポイントです。
「領土問題の存在を認め対話を」の正論は両国で大きな流れになる機運があります。
華僑向け「中国新聞」は9月28日、両国に「理性的な声が広がっている」と紹介。志位氏の提言のほか、宮本雄二前中国大使の「『領土問題は存在しない』という日本政府のやり方では問題の解決につながらない」との発言を伝えました。
国慶節に天安門広場で
国慶節の10月1日の午後。私は天安門前広場に出かけました。広場の2万人ほどの中国の人びとは「愛国」で一致しているでしょう。そのほとんどが「釣魚島は中国領」と思っているでしょう。しかしそのことによって両国民の交流が絶たれていいわけがありません。
ウイグル族と思われる男性に「日本人ですが」と前置きして声をかけたところ、「ちょうどいい。私の日本製カメラがおかしいので見てほしい」。
メモリーが一杯になっているので、そう告げました。私が「いま両国政府は島をめぐってもめているが」と話を向けたところ、彼は「両国民の関係では没問題(問題ない)」と、おだやかに語りました。
9月半ばに日本大使館前で見た激しい反日デモ、半月後の平和そのものの天安門前広場。両方とも今の中国の顔です。
一見矛盾したこの現実に、両国民一人ひとりが向き合い、答えを出していく必要がある、そんな思いで広場を後にしました。(団体職員)