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日中友好新聞

2012年7月15日号1面
逆立ち歴史観の押しつけ許すな!
侵略戦争を美化する都教委版「教材」・『江戸から東京へ』
鈴木敏夫(都立高校教員)

 「日本の戦争はアジア解放のためのものであった」など、歴史をねつ造する言動が続くなかで、河村たかし名古屋市長の「南京大虐殺」否定発言、橋下徹大阪市長の「日の丸・君が代」強要など「戦前回帰」の風潮が急速に強まっています。
 東京都教育委員会が「独自の日本史科目」と称して発行した都立高等学校・地理歴史科用教科書も巧みな編集方法で「侵略戦争」を肯定しています。鈴木敏夫さん(東京都立高校教師)に問題点を指摘していただきました。

 

 「破壊的教育改革」を宣言した石原都知事は、昨年9月の定例記者会見で、「何を破壊すべきなのか」という記者の質問に対し、「決まっているじゃないですか。(これまでの教育が)戦争に対する史観を一方的に強制してきたんだから」「(日本の起こした戦争が)きっかけとなって植民地が解放された」などと答えている。
 この石原知事の歴史観にもとづき、都立高校の日本史必履修や『江戸から東京へ』の作成が進められてきた。

 

日本の侵略戦争を合理化

 

写真1 日中友好協会

東京都教育委員会が発行した
都立高等学校地理歴史科用
『江戸から東京へ』の表紙

 『改訂版』に新設された「特集7 日本はなぜ戦争を始めたのか?」が、この「教材」(準教科書)がいかなるものかをよく表している。
 日中戦争の目的を「日・満・華3国の連帯による東亜新秩序の建設」とし、さらに「米英との戦争を」「植民地支配からアジアを解放する『大東亜共栄圏』の建設をはかることを目的として」とまで書いている。他の個所で「東南アジア諸国の独立」の項を起こし、(紆余曲折があったが)「欧米の植民地支配が一掃された」との記述まで追加している。
 またハル=ノートはソ連のスパイが作成し、日米を戦争に追い込んだとか、日本の戦争を自衛戦争とマッカーサーが認めたとかの証言を取り上げている。しかしこれは学界でも相手にされず、「つくる会」系の育鵬社教科書も検定で削除されたものである。

 

日本の近現代史を「成功物語」と描く

 

写真2 日中友好協会

当時国民に我慢を強いたスローガン(『江戸から東京へ』から引用)

 『改訂版』も含め巻頭の「学ぶにあたって」に、「江戸期に成熟した独特の感性や高い文化、教育水準は、その後の時代に財産として受け継がれ、日本が急速な近代化を遂げ、国際社会で確固たる地位を確立していく原動力となりました」(強調部は筆者)とあるように、日本の近代史をアジアにぬきんでたサクセスストーリーとしている。
 従って、日本人の「被害」はあっても近代化の「負の部分」や植民地支配などの「加害」については描かない。
 日清戦争の原因でも、外相陸奥宗光が「今は断然たる処置を施すの必要あり、何らの口実を使用するも差し支えなし」(『蹇蹇録』)と叱咤し、日本軍の朝鮮王宮占拠から戦争が始まったことを切り捨て、「日清両軍が軍事衝突」で戦争は始まる。
 『改訂版』では、改憲勢力の「教育再生会議」の批判を受け入れ、先の記述の前に「朝鮮の内政改革をめぐって(日清両国は)対立し」を追加し、日本の改革提案を清が受け入れなかったので、日清戦争が起こったかのように描など、歴史事実を踏まえない記述となっている。戦後の問題でも日本公使などによる明成皇后(閔妃)殺害事件等を取り上げることもなく、「朝鮮は親露政権を成立させ」と淡々と書く。
 関東大震災に2ページも使いながら、ほとんどが天災の話で、最後に申し訳程度に「数多くの朝鮮人が虐殺された」ことに触れている。しかし虐殺の理由は「大震災の混乱のなかで」であり、戒厳令が布かれ、軍や官憲が関与したことにはまったく言及しない。王希天など中国人に対する虐殺は一切触れられないし、亀戸事件、甘粕事件も出てこない。
 南京事件も「中国の兵士や民間人多数を殺害する事件」から『改訂版』では「多数」部分を削除するなど、記述が後退しているなどのほかにも問題は多い。

 

知事の教育観・歴史観による教育介入

 

 「破壊的教育改革」を推進する「教育再生・東京円卓会議」で石原知事は、今の生徒を“しつけ直し”“鍛えるには、「兵役」などが必要とし、猪瀬副知事はそのインフラが整ってないので、クーラーの効かない体育館で防災宿泊訓練を提案した。こうして防災に名を借りた、一泊二日の「訓練(1学年単位、全日制の都立高校生を対象)」が始まったが、都教委の指導の下、学校の中には迷彩服姿の自衛隊が講話やPRを行うところも出ている。
 以上のようなトップダウンでの知事の歴史観などの押しつけは、大いに問題にし、止めさせなければならない。

 

コラム 『江戸から東京へ』
 東京都教育委員会は、神奈川県などと歩調を合わせ、今年度から独自に、日本史を全都立高校生が必ず学ぶ必履修科目とした。その選ぶべき日本史科目の一つとして、都が設定した科目が「江戸から東京へ」である。
 その準教科書(本来は、何を使用しても、しなくてもいいのだが)として都教委が都立高校の教員などに執筆させ、江戸東京博物館長竹内誠氏らが監修して昨年度作成されたのが、同名の『江戸から東京へ』 である。
 そして、著者らに内容を知らせず、都教委の独断で今年度『改訂版』が出された。日本史の履修にかかわりなく、すべての都立高校生に配布され、都当局が「なんの授業でもいい、この教材(『江戸から東京へ』)をとにかく使うように指示」(猪瀬副知事、『正論』平成24年5月号)し、現場に押しつけようとしている。また、今後も毎年入学する生徒全員に配布するとしている。

 

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