日中友好新聞
2012年6月15日号1面
中国で「ちひろとトットちゃん」巡回展
子どもの幸せと平和願い どこでも観衆が深い共感
竹迫祐子
「ちひろ美術館」は今年3月以来、中国各地で「ちひろとトットちゃん」巡回展を開催。どこでも、いわさきちひろと黒柳徹子の作品に大きな人気と深い共感が寄せられています。「安曇野ちひろ美術館」の副館長・竹迫祐子さんのレポートを紹介します。
今年、日中国交正常化40周年を記念し、ちひろ美術館は、国際交流基金と共催で、中国各地にある「日中交流センターふれあいの場」で、デジタルによる精巧な複製画、ピエゾグラフ作品による「ちひろとトットちゃん展」を巡回展示しています。
2人の日本女性の思い示す
杭州ふれあいの場での「ちひろとトットちゃん」展開幕式。日中交流センター阿南惟茂所長、杭州図書館楮樹青館長らでテープカットが行われました。
本展は、トットちゃんの物語とともに、いわさきちひろの絵35点を展示。美しい色彩で、生き生きとした子どもの姿をどこまでも可愛く描いたいわさきちひろと、戦争下の日本で個人を尊重し個性を伸ばす稀有な教育を受けた黒柳徹子。
ふたりの日本人女性に通じる、戦争体験を踏まえた「子どものしあわせと平和」への願いを伝えるものです。
ふれあいの場は、中国の人たちが中心となって運営する日中の交流拠点。展覧会も、飾り付けや撤収、監視や案内もそれぞれの現地スタッフが中心に取り組み、ギャラリートークやワークショップ等にも関わります。
同展のスタートは、3月17日からの中国浙江省の杭州図書館。中国でも有数の規模を誇る同館の3階に、杭州ふれあいの場が新設され、それを記念して同館の児童閲書中心で「ちひろとトットちゃん」展が開幕。
開幕式とともに記念講演、ちひろの水彩技法のワークショップが開催されました。
中国で500万部のベストセラー
杭州ふれあいの場での「ちひろとトットちゃん」展
子どもたちとのギャラリートーク。ひとつの作品から、子どもたちのさまざまなイメージが語られます。
1981年に出版された『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子・著 講談社)は、刊行以来、今日までの30年間に760万部を超すミリオンセラー。現在は世界36カ国でも翻訳出版されています。
中国で長年出されていた海賊版ではなく、正規の出版が行われたのは2003年のこと。以来、今日までの8年間に410万部以上を刊行し、今秋には、500万部に到達する予定だと言います。
実際、中国での『窓ぎわのトットちゃん』ファンは多く、杭州での講演会には、たくさんの子どもたちが参加しました。
その中のひとりの小学生は、「21世紀を生きる私たちにとっては、20世紀の子どもであるトットちゃんは、純真で無邪気で、うらやましい」と、トットちゃんの魅力を語りました。
中国の子どもたちは、今日、トットちゃんのように天真爛漫、純真に無邪気には生きられないということのようです。その辺りに、トットちゃんの人気の秘密があると、中国版出版社・新経典文化の編集者は語ります。
「一人っ子」の心とらえる
1979年から、「一人っ子政策」を行なってきた中国では、ひとりの子どもに両親とそれぞれの祖父母、計6人が取り巻く環境。子どもへの期待は高く、少しでも良い学校や会社をめざす競争がエスカレートする一方。子どもも、親も教師も大きなストレスを抱えています。
そんな中、好奇心旺盛で自由闊達、小学校入学早々、退学になったトットちゃんと、その個性を認め、「君は本当はいい子なんだよ」と語りつづけるトモエ学園の小林宗作校長の教育思想に、大きな共感が寄せられていると言います。
5月7日からは、広州の中山大学外国語学院で開催されました。同校では、日本語科の先生を中心に、学生たちが飾り付けや監視を担い、日本人留学生のグループが中心に、ちひろの水彩体験も行いました。
また、先生方は授業の中に取り込んで、一緒にトットちゃんを読み合うなどの活動をも行なっています。
本展は6月16日から南京・金陵図書館、7月28日から連雲港・児童少年図書館のふれあいの場へ巡回、各地の人びとに、日中共通の願い−子どものしあわせと平和−を伝えていきます。
いわさきちひろ美術館のご案内
◆ちひろ美術館・東京(館長=黒柳徹子)
住所=東京都練馬区下石神井4−7−2 電話=03(3995)0772
◆安曇野ちひろ美術館(館長=黒柳徹子)
住所=長野県北安曇郡松川村西原3358−24 電話=0261(62)0773