日中友好新聞
2012年3月25日号1面
成長の質と安定を強調
環境、所得格差など国民の不満を直視
中国全人代政府活動報告
中国の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)が3月5日から14日まで北京の人民大会堂で開かれました。今回の全人代の主な内容、特徴などについて藤本隆さん(ジャーナリスト)に解説をお願いしました。
「多くの困難と課題に直面」
全人代初日の会場全景。最前列に胡錦涛主席ら首脳が着席(人民日報3月6日付)
温家宝首相は3月5日の政府活動報告で、2012年の国内総生産(GDP)成長率目標を7.5%にすると表明。05年から7年間続けてきた成長率目標「8%前後」を引き下げた。
その理由について、「より長期にわたって一層高水準でより良質な発展につなげていく」ためと述べた。とくに強調したのは内需の拡大。「中低所得層の収入増を図り、住民の購買力を高める」とした。中国は、高成長時代から、成長の「質」と経済社会の「安定」を重視する方向に政策転換したといえる。
温首相は「経済社会の発展が依然としてかなり多くの困難と課題に直面している」と指摘。
今回の報告で特徴的なのは、「政府活動のなかに欠点や不備な点」があり、さまざまな面で、「大衆が強い不満を抱いている」と率直に認めたことだ。温首相は「人民大衆が強い不満を抱く際立った問題の解決に力を入れる」と呼びかけた。
年内に養老保険の全国普及を
民生や福祉に力を入れる全人代の方針を見出しに掲げ、住民の収入増をグラフで示す人民日報(3月5日付)
その一つ、環境問題では、「国民の健康を犠牲にして経済の成長を追求するようなことは決してしない」と強調。12年度から直轄市・省都で、ディーゼル排気ガスなどから排出される有害物質「粒子状物質(PM)2.5」などの大気汚染物質の監視測定を始めることを決めた。
社会保障分野では、「高齢者が福祉の面で保障を受け、幸せな晩年を送れるように努める」として、年末までに養老保険制度を全国に行き渡らせると宣言。13億人加入したという全国民医療保険システムのカバー率引き上げも掲げた。
格差是正では、最低賃金の引き上げと同時に、「高所得層に対して税収による調整の度合いを大きくし、国有企業・金融機関における役員の高所得を厳格に規範化する」と述べ、欧米諸国で主流となりつつある高所得者への課税強化にも触れた。
「政府への批判直接聞く」
安徽省農村の小学校で給食に笑顔いっぱいの子どもたち(人民日報3月1日付)
住民が自治組織をつくって腐敗幹部を追放し、村民委員の民主的選挙を実現した中国広東省陸豊市烏坎村の住民運動を踏まえ、「法律に基づいた民主的選挙の実行」、「大衆的自治組織の自治能力を高める」ことも打ち出した。同時に幹部の汚職腐敗に対する危機感をあらわにし、「腐敗の撲滅・予防体制の整備」強化を掲げた。
全人代期間中、各地の代表はさまざまな問題を議論した。中国政治を専門とする中国人研究者は「全人代における改革、民生重視の議論は活発で面白い。温首相が課題を多く取り上げたのは実務的で冷静な姿勢の表れで、中国では好感をもたれている」と北京の様子を教えてくれた。
14日の全人代閉会後の記者会見で、温首相は、「文化大革命」の誤りは完全に一掃されておらず、経済の発展に伴って、分配の不公平、誠実さの欠如、汚職・腐敗などの問題も生じたと指摘。「問題解決のため、政治体制改革、特に党と国家の指導制度の改革を行う必要がある」と、改革の必要性を訴えた。また、「政府を批判している関係者の代表から直接意見を聞くことも考えている」と述べた。
今秋の共産党指導部の世代交代を控え、多くの課題と指導部の危機意識が浮き彫りになった。同時に、中国の変化の可能性を感じさせる全人代だった。