日中友好新聞
2012年2月25日号1面
米中関係 太平洋ごしに新たな波風
戦略的パートナーめざす可能性も
伊藤力司
アジア太平洋を重点とするオバマ米大統領の新戦略発表をめぐって、米中関係の行く手が内外で注目を浴びています。この問題について、伊藤力司さん(ジャーナリスト)に解説をお願いしました。(編集部)
アメリカの「貿易保護主導」を
批判する人民日報(2月3日付)
米オバマ政権は新年早々、アジア太平洋を最優先とする新国防御戦略を発表した。
日本のマスコミはおおむね、これが「米国の安全保障を脅かす可能性が出てきた」中国を封じ込めるための戦略だと解釈している。事実、過去十数年来、海空軍力の近代化を中心に中国の軍事力増強ぶりは目ざましい。1945年以来、これまで太平洋の覇権を独占してきた米国が脅威を感じているのは間違いない。
では、今後米中は激突の一途をたどるのだろうか。一方で米中間には貿易、投資、国債の購入など深い経済連環があり、将来的には戦略的パートナーとして両国が共存、協力していく可能性がないわけではない。
オバマ新戦略のねらい
オバマ大統領は1月5日、自らペンタゴン(国防総省)に足を運んで「21世紀の米国防の優先事項」と題する新戦略を発表し、経済的発展の著しいアジア太平洋地域を重視し、財政危機のため国防予算の中長期的削減を進めるが、この地域における米軍のプレゼンスを増強する方針を明らかにした。
米軍が「テロとの戦い」でイラク、アフガンに足を取られてアジアへの対応が後手に回り、中国の台頭を許したことへの反省が背景にあるようだ。
さらにパネッタ米国防長官は1月26日、オバマ新戦略を具体化するための「指針」を発表、今後10年間に4900億ドルの国防予算を削減するという厳しい財政事情下でも「アジア太平洋地域で、海兵隊をはじめとする米軍のプレゼンスは維持する」と断言した(ちなみに米国防総省は今後10年間で陸軍を8万人、海兵隊を2万人削減する計画だ)。
新戦略は一方で、豪州のダーウィンに米海兵隊2500人を駐留させる米豪協定や、新型の沿岸戦闘艦をシンガポールに配備する計画だ。米国はフィリピン、ベトナム、マレーシアなど中国と南シナ海の島の領土紛争を抱えている国々との連携を強化する。
その狙いは、同盟国の日本と韓国をはじめ東南アジアからインドまで、中国に脅威を感じている関係国とともに「巨大な弧」をつくって、東と南から中国ににらみをきかせようというのだ。
死活的利益の関係
中国は1992年の領海法で東シナ海、南シナ海を中国の領海と規定し、領海を守ることを中国の「核心的利益」だと主張している。古来「シナ海」と呼びならわされてきた海である以上、中国の領海だという粗っぽい理屈のようだ。それだけに、東シナ海に関する韓国と日本、南シナ海関連の東南アジア諸国が、中国の言い分を聞いて「はい、そうですか」と引き下がるわけにはいかない。
とはいえ、日本、韓国はじめ領有権紛争を抱える東南アジア諸国のいずれもが、中国が貿易相手として最も重要な相手国であり、対中貿易の進展はそれぞれの国の経済に死活的利益になっている。米国だって例外ではない。米国にとって投資先、貿易相手国としての中国の重要性は年々高まるばかりだ。
それどころか、中国は財政赤字に苦しむ米国の国債を世界で最も多く買ってくれている顧客である。昨年2月、米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FDR)のバーナンキ議長が議会証言で明らかにしたところでは、中国の米国債保有高は2兆ドル(約156兆円)を超えていた。
米中話し合い路線こそ
米中両国は経済的に相互依存関係にある。アヘン戦争以来150年の屈辱を晴らそうとする中国のナショナリズムを背負った中国軍部、特に空海軍の勢いを今秋交代する胡錦濤指導部が押しとどめることは容易ではないだろう。しかし次期トップの習近平・中国国家副主席が2月中に訪米、オバマ政権と話し合ったことは、少なくとも米中両国が直ちにガチガチの対決でなく、話し合う用意があることを示している。日本市民としても、米中話し合い路線の続くことを期待しよう。(ジャーナリスト)