日中友好新聞
2011年11月25日号1面
いまなぜ「侵略戦争美化」教科書採択か
その本質と背景に迫る!!
藤岡貞彦さんに聞く
育鵬社の『新しい日本の歴史』
自由社の『新しい歴史教科書』
教師用指導書
異常な猛暑が続いた今夏。それにも劣らぬ「歴史教科書をめぐる熱い闘い」が8月を中心に全国各地で繰り広げられました。「いまなぜ侵略戦争美化教科書採択か」。その本質と背景、それを許さない運動の展開は。藤岡貞彦さん(一橋大学名誉教授)に聞きました。(編集部)
「明治天皇制国家」復権が狙い
「問題の本質は何でしょう」と聞くと、藤岡さんは、開口一番「明治天皇制国家復権のクーデターです」と言い切りました。自民党文教族を中心にしたグループは執拗にこれを狙っています。そのリーダー格は安部晋三元総理。
「侵略戦争美化の育鵬社教科書などの中身は、中学校教師用に作られている『指導要項(手引き)』を見ればよく分かります」と3例を引用し解説してくれました。
明治憲法を「天皇主権ではない・・・」と歪める
1例目は「大日本帝国憲法と立憲国家」の項。それぞれの「項」の冒頭には、「本項のねらい」が書かれています。
この項では、「わが国がアジア初の立憲制度を確立したこと」「この憲法がわが国の議会制民主主義確立の第一歩であったこと」「教育勅語によって、日本人の国民道徳の背骨が形成されたこと」を理解させる、と記されています。
藤岡さんは、「注視すべきは、『事項解説』のところです」と言います。「大日本帝国憲法は、『天皇主権』の憲法であると説明されることが多い。しかし法律も詔勅も国務大臣の副書がなければ効力を持たないと規定されている。これは今日のいわゆる『民主政治』と本質的に異ならない。『天皇主権』という解釈は誤りである」と説明しています。
「これは大日本帝国憲法の本質をはぐらかし、戦後の新憲法制定は無駄だったと教えようとしている、とんでもないことです」と指摘します。
藤岡貞彦さん:プロフィール
1935年東京生まれ。1970年から1998年まで一橋大学社会学部教授。帝京平成大学教授、湘南学園学園長。天津・南開大學など中国各地で講義。現一橋大学名誉教授。著書に『戦後日本教育史』『資料 現代日本教育史』等がある。
朝鮮植民地政策を糊塗、合理化
2例目は「世界列強の仲間入りした日本」の項。ここでは、「西洋列強は、日本が世界列強の一員になったことについて、白人による有色人種支配という世界秩序が崩れたという危機感を持ったこと」「日本はロシアの脅威から日本の安全と満州の権益を守るため韓国を併合したこと」などを理解させること、と記しています。
「事項解説」では、「朝鮮での土地調査は、日本人による収奪のイメージを作ったが、調査事業の結果生まれた国有地は僅か2.6%。また総督府が管理する土地の小作権は100%保障されていた」「『皇民化政策』で言葉を奪われたというが、民族的義憤にもとづく、一種の誇張であることが分かる」などと説明しています。
藤岡さんは「日本の朝鮮植民地政策を糊塗し合理化するものだ」と指摘します。
「満州事変」の発端を逆に描く
中国の排日運動と満洲事変のページ
育鵬社『新しい日本の歴史』より
3例目は「満州事変と満州国建国」。ここでは、「満州事変前から満州国建国に至るまでの動きを、軍部、政府、現地住民および国内の世論など多角的にとらえること」「満州事変を世界はどのように受け止めていたかを知るとともに、日本の主張と対応を理解させること」「建国後の満州国が、急激な経済成長を成し遂げたことを理解させる」とあります。
藤岡さんは「日本軍の『謀略』が発端であったことは明らかなのに逆に描く、また日本の満州支配が満州に居住していた諸民族を救出するためであったと、事実を歪めたものだ」と指摘します。
そして「教科書の全ての項が、このような歴史の偽造、トリックで構成されており、これらを正確に、事実にもとづいてひとつひとつ打ち破っていくことが大切です」と締めくくりました。
緻密な学習で「理論武装」を
これからの闘いについては「『戦略的には敵を軽視し、戦術的には敵を重視する』ということでしょう。私は、横浜市の教科書採択に反対する活動に関わっています。強行採択はされましたが、市内18区中8区で使用されてきた自由社版は、教育委員会の採択では一票も得られませんでした。またこの採択をめぐって市の委員会は分裂の危機に晒されるなど矛盾が拡大しています。横浜市民は負けたとは思っていません。闘いはこれからです」と展望的に話します。
「緻密な学習が大事ですね。日中友好協会でも『教科書研究会』などを作って、指導要項を丹念に学習してはどうですか」と提案してくれました。