日中友好新聞
2011年8月5日号1面
出水美術館で「明・清陶磁の名品」
民と官が競い「鑑賞陶器」生む
福田和男
「明・清陶磁の名品−官窯の洗練、民窯の創造」と銘打った展覧会が、東京・丸の内の出光美術館で6月28日から9月4日までの日程で開催されています。
中国陶磁の本流は、各王朝の宮廷用御用器−官窯製品ですが、明の御器廠(ぎょうきしょう)、清の御窯廠(ぎょうようしょう)や琺瑯作(ほうろうさく)は、官営の専門工場として確立し、至高の陶磁器を創り出しました。
出光美術館学芸員の金沢陽さんに、同展の意義や見どころを聞きました。
庶民の成長映す
青花龍文壺(明)
展覧会は、「宮廷用の規範に則った、格調高い雰囲気を醸し出した『明前期の官窯』(洗練された皇帝の磁器)」、「優れた絵画的表現を可能にした粉彩の作品を集めた『清朝盛期の官窯』(超絶技巧の時代)」、「官窯と民窯が、あたかも美を競い合うような『官民競市の16〜18世紀」(民窯の創造と官窯の変貌)」、「景徳鎮にない特色を有する『青磁と法花』(明代地方窯のかがやき)」の四つで構成されています。
金沢さんは、「官民競市の16〜18世紀」を念頭に、「陶磁によって、一般的な歴史では分からない、中国庶民の成長や躍動感を理解することができます」と説明します。
初めて清朝に焦点
同美術館の中国陶磁器展は、毎年、「やきものに親しむ」と銘打って、展示を行なってきましたが、本年度は開館45周年ということもあり、趣向を変え、明・清時代に絞って、厳選した120件余の名品を紹介。
とくに清朝陶磁(37件)にスポットを当て、この時代の技巧の高さと、研ぎすまされた美意識の粋を見て欲しいと言います。
今回の作品が「鑑賞陶器」である点も注目されています。近代の中国陶磁鑑賞において、それまでの茶道や文人趣味の審美眼を乗り越えて、純粋な鑑賞を目的とすることが提唱されました。
その結果、中国陶磁の本流の作品―鑑賞陶器が収集されるようになりました。今回は、そうした鑑賞陶器の名品展と位置づけています。
景徳鎮に官窯
中国で陶磁器が発達し、常に世界最高の芸術品であり続けた大きな理由の一つが、宮廷のために陶磁器(御器)をあつらえる官署―「官窯」の存在です。
官窯は、採算を度外視して最高の陶磁器を調達したため、工芸技術が極度に発達。官窯には専用の工房を備える場合と、民窯に注文生産する場合がありました。
明・清時代には、江西省景徳鎮に官窯が置かれ、御器廠・御窯廠と呼ばれる専門工房が存在した時期がありました。
「民窯は、陶磁器を製造・販売する窯元ですが、明時代の江西省の陶工は、戸籍が窯戸(かまこ)に編入されていて、景徳鎮の官窯で制作に当たる義務がありました。同時に御器の制作を通じて、彼らの技術も磨かれることになりました。その結果、明代後期には民窯が著しく発達し、官窯の注文生産も担い、御器に民間の意匠が採り入れられる原因にもなりました」と、金沢さん。
「一方、清朝の官窯は粉彩を中心にさまざまな技法が開花し、磨き上げられて、寸部も狂いのない、また絵画かと見まがうばかりの器面装飾が見どころです。
細密な描写と、金を呈色材とする淡紅色などの中間色、そして豊かな諧調のある色彩を得られたことが特徴です。紫禁城内で作られたものを特に琺瑯彩と呼び、景徳鎮窯製の粉彩と区別しています」
お勧めの名品は?
粉彩花卉文碗(清)
金沢さんお勧めの作品の一つは、青花龍文壺(明「宣徳年製」銘、景徳鎮窯)〔上の写真〕。ニューヨークのメトロポリタン美術館の龍文壺と一対をなしていたと考えられる世界的名品。大きく見開いた目、躍動感あふれる姿態の3本爪の顔は、肩部の鬼面や霊芝雲(れいしうん)の間に見事なバランスで配され、青花の濃い発色が壺全体をきわめて印象深いものにしています。
粉彩花卉文碗(ふんさいかきもんわん)(清「大清雍正年製」銘、景徳鎮窯)〔左の写真〕は、粉彩の諧調に富む色彩によって、淡紅色の牡丹は、花弁の重なりや陰影、薄くやわらかな質感までも、さながら画絹の上の絵のように描き出されています。
清朝は、西洋の新技術を採り入れることによって、中華の伝統である花卉画の粋を、陶磁史上初めて磁器上に表すことに成功しました。粉砕磁器は、清官窯が創出した、新しい中華文化の一例と言えます。(東京都連・中央区支部)
☆開催概要☆
▽とき=2011年6月28日(火)〜9月4日(日)午前10時〜午後5時(入館は4時30分まで)、休館月曜日
▽ところ=出光美術館(帝劇ビル9階=JR有楽町駅5分)
▽料金=1,000円、高・大生700円(団体20人以上各200円引)、中学生以下無料
▽問い合わせ=03-5777-8600(ハローダイヤル)