日中友好新聞
2010年7月15日号1面
「中国脅威」論は幻の想定
米基地「抑止力」宣伝を考える
伊藤力司
いま沖縄の米軍基地問題をめぐって、米海兵隊は「抑止力」として必要だ、という論調がふりまかれ、その都度、北朝鮮とともに「中国の脅威」が叫ばれています。こうした問題をどう考えるべきか。伊藤力司さん(ジャーナリスト)にコメントをお願いしました。
今年は安保改定50周年
4月25日の「米軍普天間飛行場の早期閉鎖・返還と、県内移設に反対し国外・県外移設を求める県民大会
哀れにも、鳩山前首相は米海兵隊普天間基地の移設先を「最低でも県外」とした公約を守れなかった責任をとって辞任した。鳩山氏は、移設先を06年日米合意の名護市辺野古沖に戻したのは、海兵隊基地のもつ抑止力について学んだからだと述べた。
しかし、仮に中国か北朝鮮が武力行使を計画しても在沖海兵隊の存在に恐れをなして断念するだろう、という想定は真っ赤なウソである。
今年は、1960年の安保闘争から50年という節目の年である。樺美智子さんの死と岸信介首相の辞任を引き換えに自然成立した改定日米安全保障条約も、半世紀の歴史を数える。
この安保条約のポイントは「日本は米軍に基地を提供する代わりに米軍は日本および極東の安全保障に責任をもつ」という同条約第6条にある。これによって、敗戦とともに日本中に設けられた米軍基地は存続を許されたのである。
なぜまだ米軍基地が
5月16日の普天間基地包囲行動
1960年といえば米ソ冷戦たけなわの時期である。単独講和によって西側陣営に組み込まれた日本は、ソ連、中国、北朝鮮の仮想敵国をにらむ最前線に立たされ、在日米軍基地は不可欠の存在であり、米軍基地の75%が集中する沖縄の戦略的位置は高かった。
しかし、冷戦終結から約20年を経た現在も米軍基地が存続しているのはなぜか。また、かつては「日米安保」と言われていたのに、最近では「日米同盟」と言われるようになったのはなぜか。
その訳は、1996年の「日米安全保障共同宣言」と97年の「日米防衛協力のための新指針(新ガイドライン)」および2005年の「日米同盟 未来のための変革と再編」という日米政府間合意にある。
60年安保は「日本および極東の安全」のための条約だったが、05年以降の日米同盟は「世界における共通の戦略目標を達成する」ものとなった。本来なら国会の批准が必要な新条約を結ぶべき内容の変更が含まれているのに、時のブッシュ・小泉政権は政府間合意だけですませた。
海兵隊は東アジア向けでない
住宅密集地にいすわる普天間基地の航空写真(写真提供・宜野湾市)
この結果、日本は、世界的規模で対テロ戦争を進める米国の世界戦略に組み込まれ、米国の敵は日本の敵と見なさなければならなくなった。だから沖縄の海兵隊基地は「日本の安全を守るため」というより「米国の世界戦略のため」、実際にはイラク、アフガン戦争の基地として使われているのだ。
日本政府は自民、自公、民主政権に至るまで「日米同盟」は中国や北朝鮮の脅威に対処するために必要だとの建前をとっているが、これは真っ赤なウソである。
沖縄の海兵隊は、アフリカから中東、中央アジア、南アジアに至る「弱い孤」で事が起きた時に出動する「殴りこみ部隊」であって、東アジア対処の部隊ではない。
北朝鮮が核・ミサイルを開発しているのは在日、在韓基地に展開している米軍が怖いからであり、日本を脅かすためではない。
このところ、中国が海空軍力を急速に増強していることを脅威ととらえる論調が目立っているが、これも「日米同盟」の必要性を宣伝するためのプロパガンダ色が濃い。
米国はブッシュ前政権の時代から、急速な経済成長を遂げている中国をパートナーとして取り込む方針に転じ、オバマ政権に至っては中国を「経済・戦略パートナー」として年2回の閣僚対話を続けているほどだ。台湾海峡の波も静かで、中台経済関係は拡大の一途をたどっている。
沖縄の海兵隊の抑止力が必要とされるような危機は、少なくとも東アジアには存在しない。
(写真はいずれも安保破棄中央実行委員会提供)