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日中友好新聞

2010年4月5日号1面
中国は民生高度化の新時代へ
内需拡大・所得格差縮小は成功するか
政治協商会議と全人代にみる 井出啓二

 

写真

全国人民代表大会
政府活動報告

 3月上・中旬に「両会」(政治協商会議、全国人民代表大会)が開催され、8%成長など今年度方針を中心に活発な論議が交わされました。
 消費・内需拡大、所得格差縮小、民生向上の方向が一段と明確になりました。
 昨年の「両会」は、世界経済危機のさなかの開催、今年は一転してV字型経済回復、消費景気に沸いた春節の余韻がのこる時期の開催でした。
 中国は、1年足らずで高成長に復帰し、早くも新たな飛躍の時期を迎えたことになります。

 

存在感増す中国・新興国

 

 09年世界経済の最大(約5割)の牽引者は中国であり、07年夏に始まる今次経済危機は、中国そして新興経済諸国の存在を際立たせる結果となりました。
 今年もそうなるというのが大方の観測。そのため今年の「両会」には877人もの外国報道陣がつめかけました。
 賃金と年金の上昇、したがって生活水準が毎年急速に上がり、躍進を続ける中国は、60〜80年代の日本を想起させます。

 

新方針は盛だくさん、しかし課題は山積

 

 今年の経済の基本方針は、積極的財政及び金融緩和の景気刺激政策の継続(これは昨年と同じ)、しかし景気動向により、機動的に金融引き締め政策を発動する、という両にらみの構えです。
 この基本方針の下で、温家宝政府報告では、次の諸点が強調されています。
 @効率と質を軸とする経済発展方式への転換。
 A格差是正、消費・福祉・雇用の重視による内需拡大。
 B汚職・腐敗、官僚主義への厳しい批判。
 Cこのほか、戸籍制度改革、全人代選挙制の改正など多くの新方針。
 輸出主導、投資主導の成長から、消費・内需主導、環境にやさしい(低炭素経済)成長への転換をはかろうとしています。
 中国では「三低現象」とも言われますが、これまでの高成長過程では、賃金の上昇が成長率に及ばず、GDPに占める消費の比重が低下し、労働分配率が低下してきました。
 内需主導の成長に導くためには「三低現象」の克服が必要、そのためには、社会保障、農業・農民・農村の向上、中西部の経済発展などが必須です。
 一昨年末からの4兆元投資の44%は民生に向けられました。また東北地域、天津海濱、環北部湾、海峡西岸に続いて、中西部地域振興を中心にすでに7つの地域振興計画が批准され、成長の牽引が意図されています。

 

注目される次期5ヵ年計画の策定

 

 本年で現行5ヵ年計画期は終了しますので、今大会で出された基本方針の多くは、明年からの次期5ヵ年計画にひきつがれることになります。
 消費・内需主導、経済発展方式の転換、低炭素経済化は簡単に実現できる課題ではありません。昨年実績では消費の成長寄与率は36.5%で、投資が主導しました。このなかで鉄鋼、セメント、板ガラスなど6業種では過剰生産能力問題が深刻化しています。
 また中国では急速に所得格差が拡大し、住宅価格が高騰しましたが、これは政策的に推進されたというより、相続税、所得税、不動産税(とくにキャピタルゲイン課税)など税制の不備によるところ大です。
 同様に、前および現行5ヵ年計画の低目に設定されている公害排出削減目標が未達成、あるいはその見込みというのも、方針がないというより、それを実現する仕組み・制度の整備が追いつかないためと考えられます。

 

望まれる自由・民主・軍縮の展開

 

 中国が軍拡に歯止めをかけられないのは、これとは異なり、政策的に推進されているためです。
 端的に言うと、情勢判断やイデオロギー的理由にもとづいています。今年も続く軍事費の拡大(5190.8億元、7.5%増、日本の1.4倍)は民生向上と衝突します。日中両国に今もみられる冷戦思考の残存は早急に克服が望まれます。
 昨年、建国60年を回顧する論説が多数発表されましたが、民生は向上、民主化は未実現というのが大方の論調でした。
  今次大会でも、汚職、腐敗を防止・根絶しうる展望はなお切り拓かれているとはいえません。公害を抑止しうる経済発展方式の転換とともに、自由・民主・軍縮の大胆な展開が求められています。(長崎大学名誉教授)

 

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