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日中友好新聞

2008年8月5日号1面
「白毛女」(1950)で中国映画発展に尽力
日本人編集者
岸富美子さんに聞く

写真
岸富美子
 1920年中国営口生まれ。父の死去で帰国、鹿児島で10年過ごす。16歳で第一映画社に入社、18歳で京都日活、その後「満映」に勤務。1953年帰国。新藤兼人監督らと独立プロで活動。民芸、共同映画社などに勤務。

 来年は中国建国60周年。いま中国映画は数々の国際グランプリを受賞するほど高い評価を受けていますが、建国初期、中国映画の制作には映画監督の内田吐夢、木村壮十二、脚本家の八木寛氏ら80人の日本人が協力。協会が中心となった上映運動で、のちに日本でも大きな反響を巻き起こした「白毛女」の制作に参加しました。岸富美子さんもその一人です。

 

 岸さんは、カメラマンだった兄の福島宏さんの影響を受け、16歳から映画関係の仕事に就き、19歳で中国に渡り、満州映画協会(満映)に入社。「満映」は、当時の日本軍が大陸進出の目的のために、「日満親善」「五族共和」「王道楽土」といった「満州国」のスローガンを中国人に宣伝するために作った国策映画社でした。社会主義者の大杉栄夫妻を虐殺したといわれる甘粕正彦大尉が第二代理事長を務めていました。
 本紙07年新年号でも紹介した山口淑子さんは、かつて「李香蘭」の名で知られたトップスターでした。

新中国で8年、映画制作に参加

 岸さんは、「満映」に6年勤め、戦後は8年間中国に残り映画作りに貢献。この時期に今日の中国映画の基礎が築かれました。
 日本人がかかわった31本の映画のうち10本の編集を担当。なかでも「白毛女」は最も印象に残った作品でした。
 監督は王濱さん(1960年、48歳で死去)。「新中国は映画作りに力をいれ、『白毛女』は1950年に、建国記念の作品として作られました。当時は年7本も制作していましたが、『白毛女』は最高の作品と位置づけ、これが完成しなければ他の6本も駄目、といった力の入れよう。3月から半年、山西省でロケし年末までに仕上げるというハードスケジュールでした」と、岸さんは制作時の思い出を語ります。
 「私は長男を生んだばかりで育児も大変。当時中国には私たちのような技術者がいなかったので、たびたび徹夜作業も。その時は、宿舎まで授乳のためにジープで送迎してくれたり、監督は気を使ってくれました。期日までに完成し、中国電影局からOKが出た時は、撮影所あげて万歳しました」と感慨に浸ります。
 しかし一方、「国策映画を作ってきた自分が、急に中国共産党主導の映画づくりにかかわり、日本軍の蛮行を描くなかで、『本当に日本はこんなことをやったのか』という驚きと戸惑いも。また映画と政治はどうかかわるのかと深刻に考えたこともありました」とも。

主演の田華さんと再会

 NHKのドキュメンタリー「中国映画を支えた日本人」は、岸さんを主人公にして作られました。この撮影で05年に中国を訪れた岸さんは、当時のカメラマン馬守清さん(カメラマンから出発した張芸謀監督は、彼の孫弟子にあたる)や王濱監督の娘さん、編集を教えた7人の弟子など多くの知人と面会しましたが、最も感動的だったのは、「白毛女」で主役の喜児(シーアル)を演じた田華さんとの再会でした。
 田華さんは、中国映画界の長老的存在。「50数年ぶりの再会は夢のようだった」と語ります。05年に北京に「映画博物館」が開館し、「白毛女」の記録が収められています。

二度と戦争のない両国関係を

 「満映」時代を含めた15年の中国での生活と、帰国後の日中関係の変化を振り返り、「歴史の流れのなかで予想もしなかった仕事をしましたが、中国映画草創期のこの努力が、中国映画の今日に生きていることを見ると、大きな喜びと誇りを感じています」と静かに語ります。
 「もう二度と不幸な戦争をしない両国関係を作って欲しい。若い世代に期待したいですね」と締めくくりました。
(お)

 

「白毛女」あらすじ
 地主黄家の小作人、趙家の娘喜児と王家の息子大春は幼馴染で結婚が決まっていた。黄家の若旦那世仁は、喜児に目をつけ借金のかたに奪ってしまう。父は自殺した。
 黄世仁は、フィアンセへの思いを断たせるため、王家の土地を取り上げる。喜児は、世仁の子を身ごもるが、黄世仁は新しい嫁をもらうため、喜児は妓楼に売り飛ばされることになり、山中に逃げ込む。そうした苦労がもとで髪の毛は真っ白となった。
 人びとは「白毛仙姑」と呼びあがめるようになった。2年後、村は共産党に解放され、八路軍指導者となった大春が帰ってきた。白毛女・喜児と大春は再会する。そして土地改革で黄世仁は打倒され、2人は結ばれる。

 

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