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日中友好新聞

2008年6月15日号1面
今こそ解決の時
中国人強制連行・強制労働事件
高橋 融(中国人強制連行・強制労働事件 全国弁護団団長)

写真
最高裁判所前で横断幕を掲げ、事件解決を訴える強制連行の被害者たち(06年10月)

 日中戦争期、日本が「政策」として行なった中国人強制連行・強制労働は、約4万人もの中国人が日本に連行され、各地で迫害や酷使を強いられ約7000人が死亡。生存者の高齢化が進んでいるにもかかわらず、事件は戦後63年目の現在も未解決のままです。この問題について、同事件全国弁護団長の高橋融さんに解説してもらいます。

 

 戦後63年を経て、当時最も若かった14歳の少年ですら77歳、まして当時働き盛りの22歳の人は、今85歳。その意味では、5年後には被害者が誰も生存していない時代になる恐れがあります。解決するのは、今をおいてありません。
 ドイツのラオ大統領が、「補償は遅すぎました。私は、多くの人びとにとって、金銭など全く重要ではないということを知っています。ドイツの支配下で強制労働を行わなければならなかったすべての人びとに思いをはせ、ドイツ国民の名において許しを請います。あなたたちの苦しみを私たちは忘れません」と言ったのは、今から約9年前、ドイツの補償交渉の終結の日、1999年12月17日でした。
 私は、今もし解決できなかったら、どうなるかと恐れています。

解決の可能性はあるのか

 昨年4月27日、西松事件の最高裁判決(注)があって、中国人被害者の請求権放棄が認定された時には、私たちは永久に解決の道が閉ざされたのかと思いました。
 ところが実際は全く違いました。むしろ、これまでにない可能性が開けたとさえ言えるような事態となっています。
 少なくとも、この最高裁判決前は、与党、官庁、関係企業、経済団体(日本経団連など)あらゆるところが、「いま裁判中ですから」と言って「面会拒否」または「面会しても中味がない」という応対で終始していました。
 ところが、何度かの弁護団との交渉の後、今は、若干の企業を除いて、会って対話ができるようになっています。
 その中で分かってきたことは、政治家、官庁、企業等関係者すべてが「解決済み」ですと一律に言うのですが、本音では「しかし、解決できたらいいですねえ!」と言い、「国や他社が解決するのなら、当然弊社も解決に参加します」と言うのです。
 この判決がまとめで「被害者らの被った精神的・肉体的苦痛が極めて大きかった一方、上告人は前述したような勤務条件で中国人労働者らを強制労働に従事させて相応の利益を受け、更に前記の補償金を取得しているなどの諸般の事情にかんがみると、上告人を含む関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待されるところである」と言ったことは重要であり、この判決によって状況が開けてきたと言えます。

解決の道筋――2項目

 私たち弁護団は、今求められている解決は、一つ一つの事件の裁判所での解決ではなく、強制連行・強制労働事件全体の解決です。
 その要求を弁護団は、次の2項目にまとめています。
(1)日本政府と加害企業は、先の大戦中、中国人被害者を中国から日本へ強制連行し、国内各事業場で強制労働させた事実を認め、謝罪の意思を表明せよ。
(2)この謝罪の証(あかし)として、日本政府と加害企業およびそのグループ企業は、総額1000億円の基金を設立し、被害者・遺族への補償金の支払、強制連行・強制労働の調査・研究・教育および未来を担う青少年の日中交流等の事業に充てよ。
 (1)は事実の確認と謝罪です。これがすべて基礎ですが、事実は既にどの判決も認めていますから問題はないでしょう。今までのことから考えると、謝罪が一番問題でしょう。
 (2)は、被害者1人当たり約2万ドル、4万人分の基金ですが、これはドイツの強制労働について解決のために作られた「記憶・責任・未来」基金と、アメリカで強制収容された日系人に支払われた補償金の1人2万ドルに学んだものです。

国民の声、世論の力で

 (1)他の運動と違う特色は、この事件の被害者が国内にいないということです。
 被害者は高齢から、日本に来ることは困難です。しかし、解決のためには、これを求める国民の声、世論が必要です。そのためにパンフレットをつくりました。活用してください。
 (2)各地の裁判で、解決の気運を盛り上げるための行動をとっています。ご協力下さい。
 (3)各企業に対する解決要求の行動にご参加下さい。
 (4)各党の政治家や自治体に働きかけて下さい。

 

→西松訴訟最高裁判決

 第2次大戦中に強制連行され、広島県内の水力発電所の建設現場で過酷な労働をさせられた中国人の元労働者ら5人が西松建設を相手に約2700万円の損害賠償を求めた訴訟の最高裁判決。中国人被害者・遺族が勝訴した広島高裁判決を逆転し、1972年の日中共同声明により原告の請求権は、裁判上請求することができないものになったとして、中国人原告を敗訴させた。

 

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