日中友好新聞
2008年5月5日号1面
中国文化の華 京劇の魅力を語る
殷 秋瑞(京劇俳優)
「三国志」の長坂坡 漢津口の場面で曹操を演じる殷さん(筆者提供)
今秋、日本中国友好協会では北京風雷京劇団を招き、全国で京劇公演を計画しています。京劇の魅力について京劇役者の殷秋瑞さんに寄稿してもらいました。3回に分けて紹介します。中国語で寄せられた原稿を翻訳しました。(編集部)
京劇芸術は国の精華と称されています。中国数千年の文化を凝縮させ、有限の空間で無限の生活を表し、中国クラシック劇の中で、最も優れた精髄を伝えています。歌劇や、新劇、バレエ舞踊劇などさまざまな芸術スタイルと比べると、京劇のもつ芸術的な表現力は最も全面的です。
歌舞伎に歌劇的スタイルを加味した伝統芸術
日本では多くの人が京劇を、見慣れないもの、なにが京劇なのか分からないと感じているようですが、私はこういった質問に対してはいつもこう答えています。
「京劇は多方面にわたって歌舞伎と非常に似ていますが、違うところもあります。それは、歌ったり舞ったりする部分が大きな比重を占めていることです。さらに正確に言えば、京劇は歌舞伎に歌劇的な一種特殊なスタイルを加えた中国伝統芸術の代表なのです」
京劇はこのように多くの魅力をもっていますが、近年来、京劇の観衆はしだいに減っています。特に、現在の若者は京劇があまり好きではありません。現代人の娯楽が豊かになりすぎたことも原因の一つと考えられます。京劇はまた観客に文化素質や、鑑賞力などで高い水準を求めていることも大きく関係しています。
嬉しい日本人愛好者の増加
こういった状態を改善するため、京劇界の人たちはさまざまな努力をしています。それに比べて、ここ数年、来日して公演する劇団が年々多くなり、京劇を愛する日本の観客が、雪だるま式に増えているのはとても喜ばしいことです。
最近の中国社会では「京劇教室」(小学生からの民族芸術教育)が大きな社会的反響を引き起こしています。「京劇教室」は、普及の一手段であって、小さいときから興味を持たせることができれば、とても良いことだと言えます。
京劇では歌や踊りで物語の意味合いを説明します。文学、音楽、舞踊、武術、美術、雑技など、それぞれの芸術を総合的に体現しています。伝統劇の演目は3000以上あります。京劇は総合性、仮想性、格式性という三つの大きな芸術的特性をもっています。
四大役柄で人物を描く
京劇の最大の特徴について、まず京劇の役柄から紹介します。京劇の役者の演じる役柄は、生、旦、、丑の四大役柄とされています。
- 生行 (男役)
生行は男性の役を演じる役割。京劇における地位は非常に重要です。
- 旦行 (女形役者の総称)
京劇の旦行は、さまざまな年齢、性格、身分の女性の役を演じること。
- 行 (敵役や剛直または粗暴な役柄)
、または“花(ホァリェン)”と称します。主に性格、品性、あるいは風貌などで、際立った特徴をもった男性人物を表現します。顔面は顔つきを簡単に描写する程度の化粧をし、動作を誇張させて演じ、その性格と声の勢いを際立せます。
- 丑行(道化役)
丑行は、“道化役”とも言われます。化粧の時、鼻筋に小さくて丸い白い塊を描きます。丑=醜いの由来はここからきています。“丑行”の丑は容貌が美しくないことを示すのであって、品性上の醜さを示しているわけではありません。また、正直で善良なイメージもあります。
四つの表現手段も見どころ
そのほか、京劇の表現手法で大切なことは“四功”です。それぞれ、唱、念、做、打となります。京劇の“唱”は、最も重要な地位を占め、それぞれの役柄、流派、その発声、発音、節回し、精神の集中すべてに独創的な方法があり、音声や歌い方が大きく違います。
“念”は、せりふを指し、人物のせりふを言います。主に叙事の役割を果たします。京劇はせりふを重視しており、“千斤白四两唱”つまり芝居で一番大切なのは、せりふがうまいということで、唱はたいしたことではないという説があります。せりふを読むときは、北京語で言うせりふと、韻をふんだせりふと2種類があり、前者は日常生活のことばに近く、後者は芸術的な加工がほどこされた舞台言語となっていて、抑揚を効果的につけています。
“做”は舞踏化した形体動作を指し、人物の性格を際立てるために用い、人物の感情や情感を表します。
京劇の舞台上の“打”は中国の伝統的武術動作から練り上げられた基本的な型や、ひっくりかえったり、転んだりする技です。身のこなしや、舞踏の美しい動作を大切にしています。
来日公演は、言葉が違いますし、劇団は一般に“做”、“打”を主とする演目を多く選びます。特に“孫悟空”のような、突出した化粧や装飾、および演技は分かりやすく見ても楽しいものです。
殷 秋瑞(イン・シュウズイ)氏のプロフィール
1962年北京生まれ。
10歳より京劇俳優養成の最高機関である中国戯曲学院で学ぶ。
専門は花●(顔に隈取りをしている男性の役柄)。
19歳で学院を卒業後、中国戯曲学院実験京劇団を経て、中国京劇院俳優として活躍。
1990年の来日後も『覇王別姫』の覇王などさまざまな役を演じ、2003年には中国の中央電視台(テレビ局)で旧暦正月に放送される「春節戯曲晩会」へ特別出演。俳優以外の活動では、非常勤講師として桜美林大学で日本の学生に京劇の指導。中国戯劇家協会会員、中国演出家協会会員。