日中友好新聞
2008年4月15日号1面
中国人気アニメ誕生の夜明けは近い?
日本アニメに熱中する若いエネルギー
石子 順
中国のアニメキャラクター「憨八亀」(ハンバグイ)
中国では日本のアニメやマンガがブームになっています。昨年11月に中国の大学で講演し、学生たちと交流した石子順さん(日中友好協会本部副会長、映画・マンガ評論家)に中国アニメの現状について執筆してもらいました。(編集部)
マンガ講義は大反響
「你(君たち) 喜歓動漫画(マンガ、アニメが好きか)?」と聞くや「喜歓!」と大反響。つづけてポスターを見せると、会場全体から「幽霊公主!」と瞬間的に大歓声がおこる。「ではこれは?」「竜猫!」―宮崎駿の「もののけ姫」、「トトロ」などが大好きなのだ。
07年11月末、漫画家森田挙次、山口太一、山内ジョージと招かれた重慶・四川美術学院動画学院、深圳職業技術大学でのマンガ講義と交流の反応はよかった。
06年の中国人民大学、大連大学でも、漫画本をかかげただけで「コナン!」「ドラえもん」と学生の叫び声が渦巻いて、張りつめた雰囲気の日本漫画家歓迎式典がたちまち笑い声と感激の友好・交流の場と化してまわりを驚かせた。
どこでも一枚のアニメポスター、一冊の漫画本だけで強い手ごたえが返ってくる。想像をこえることだったが、漫画、アニメの威力を再認識。
では「手塚治虫は?アトムは?」と問いかけるがにぶい。鉄腕アトムが中国放映されたのは1980年代、いまの30歳代の子ども時代なのだ。そこで「手塚治虫の影響を受けて宮崎駿は出現した。手塚なくして宮崎なし。二人の共通点は戦争を嫌い、平和を愛したこと。アニメ、マンガは生命の尊重の表れ。君たちもこのようなアニメを作ってほしい」と訴えた。
日本のアニメ、マンガブーム
中国での日本のアニメ、マンガのブームはすさまじい。「映画伝奇」、「日本動漫」「宮崎駿的感官世界」といった紹介本も多数出ている。宮崎駿のようなアニメ作家になりたいかと聞けば、学生9割が手を挙げた。すでに宮崎駿を意識した実作者もあらわれている。
昨年の東京国際映画祭で上映された長編アニメ「勇士」の王加世監督がそうだ。王監督は「宮崎駿の国で自分の作品が上映されることは光栄です」といった。
王加世は上海美術映画制作所出身で、ここは「大暴れ孫悟空」や水墨アニメ「牧笛」などを制作してきたただ一つのアニメ制作所だった。
それがいまでは長春映画美術映画制作所、北京テレビ、中央テレビなどのアニメ部、水墨アニメの大家特偉の動画スタジオなどが出現してアニメ制作は活況を呈している。
アニメプロダクションは全国に3000社余りあるといわれ、深圳では一つのビルに30社ほど入っているアニメ基地がある。また華夏動漫公司のように3Dアニメ「ハンバグイ」制作で成功しつつあるところもある。四川美術学院など大学のアニメスタジオも自主作品制作に熱心だ。
アニメ不足の実情
だが、中国の子ども人口3億5000万人、テレビにアニメ専門チャンネルがあり、各テレビ局で子どもの時間帯には外国アニメが規制されていて国産アニメが放映され、劇場アニメも求められている。絶対的にアニメ作品不足なのである。
しかも短編が主で長編は少ない。人気キャラクターによる人気作品が生まれないのが実情だ。この春節の連休には日本の「ドラえもん」が劇場公開されて大ヒットしたが、「勇士」のような国産アニメはあまり知られていない。
夢ではない人気アニメの誕生
だからこそ、宮崎アニメなど写実的な日本作品のキャラ、動き、物語に感動しひきつけられ、熱中してしまうのだろう。だがこの熱中度には日本のアニメを学び、吸収していこうとするエネルギーがあふれている。
国もアニメ人材の養成、アニメ産業の振興をはかっている。上海では今年アニメショーが開かれる。アニメを愛する若い世代から、近い将来、中国の大ヒット作品が生まれることも決して夢ではないだろう。
宮崎アニメのポスターに敏感に反応する学生たちの歓声は、中国人気アニメの夜明けを告げる未来の雄叫びのようにも聞こえたのである。