日中友好新聞
2008年3月25日号1面
改革・開放30年の軌跡
中国社会の巨大な変貌
長崎大学教授 井手啓二さん
北京市内の書店で株の本に群がる市民
改革・開放30年を迎える中国は今、急激な変貌をとげています。改革・開放政策で中国はどう変わったのか。協会参与で長崎大学教授の井手啓二さんに改革・開放政策の成果と課題について執筆してもらいました。(編集部)
今年は、改革・開放30周年です。この30年の中国社会の巨大な変貌について私見を記します。
中国がここまで急速な発展を遂げるとは、私は予見しておりませんでした。
GDP、近く独・日追い抜く
30年前中国のGDP(国内総生産)は世界第10位。貿易額は第27位で、韓国、台湾より下位に位置し、立ち遅れは誰の目にも明らかでした。それが90年にはGDPで第11位、貿易額で第16位となり、07年には、それぞれ第4位、第2位となりました。GDPでドイツ、日本を抜くことは目前です。
今日から一見すると、中国は高度成長を順調に続けてきたように思われがちですが、そうではありません。この間、89―90の両年のように3―4パーセント台の低成長期や92―94年の12―14パーセント台の過熱成長期もありました。安定的高成長は90年代半ばからです。
多くの曲折を経て
改革・開放の中・長期の見取り図は当初からあったわけではありません。かなりの曲折があり、次第に進路がはっきりしていくことになりました。
過去30年に政治的大波乱がいく度もありました。華国鋒党主席解任(81年)、胡耀邦総書記解任(87年)、天安門事件と趙紫陽総書記解任(89年)がそれです。突然の失脚ではなく、平穏裏に最高指導者の交代が行われたのは江沢民から胡錦涛への交代(02年)からです。
私は、過去30年の改革・開放は、(1)1978〜1983年、(2)1984〜1988年、(3)1989〜1991年、(4)1992〜1997年、(5)1998〜現在、の5期に分けられると考えています。
最大の画期は1992年の社会主義市場経済化路線の採択です。これにより、中国は自壊・自滅を遂げた東欧・ソ連の改革の限界を越えることが可能となりました。それ以前は、基本的には東欧の改革の後追いでした。
この結果、89〜91年のいわゆる「蘇東波」(ソ連・東欧の社会主義の崩壊)の衝撃をかわし、未来が切り拓(ひら)かれました。
この30年間、開放政策はほぼ一貫して前向きに進められ、01年にWTO(世界貿易機構)加盟にいたりました。他方、改革は、前進・停滞を繰り返し、本格的改革の安定的前進は朱鎔基首相が登場する98年からです。
今後30年により大きな変貌が
改革・開放の成果は誰の目にも明らかです。また経済的・社会的格差の拡大、環境問題の激化、汚職・腐敗の蔓延も同様です。中国社会は今なお激変のさなかにあり、今後の30年にも、今まで以上の大きな変貌を経験することでしょう。大変貌の戸口にあるといえます。
第一次産業就業者が、42・6パーセント(06年)、就労・居住場所選択の自由の制限、国民年金制度の未確立、1人当たりGDP2003ドル(06年)、幹部による汚職・腐敗の蔓延等は近代化途上を表わしています。
中国には前近代の事象が多々あります。同時に現代の最先端の事象を目にすることができます。有人衛星や月探査衛星の打ち上げ成功、大・中・小旅客機生産計画はその典型でしょう。
中国が近代化、工業化をハイテンポで進めていることは間違いありません。平和的発展を希求していることも確かです。しかし軍事力近代化・増強、超長距離ミサイル、空母保有を望んでおり、武器輸出をしていることも事実です。
79年のベトナム侵攻のような野蛮な愚行は繰り返さないでしょうが、平和運動に依拠し、軍事力には依拠しないという路線は未確立です。民主化・市民社会の成熟は次第に進んでいますが、なお大きく見劣りします。
社会主義市場経済化をどう見る
今、日本で中国について大きく見解が分岐しているのは、社会主義市場経済化をどう見るかという論点です。中国は社会主義的発展を志向しています。共同富裕路線も捨てていません。しかし国民の社会的・経済的格差や金銭崇拝は先進国の比ではありません。
ここから中国は低級・野蛮な資本主義から高級な資本主義への移行過程にある、とする見方(関志雄、榊原英資)もあります。また官僚金融産業独占資本主義であるとする見方(小島麗逸)もあります。
私は、こうした見方はとりません。中国が資本主義化を宣言しない資本主義化の道を歩んでいるのか、社会主義的発展の途上にあるのかはやがて明らかになるでしょう。
ここで論証はしませんが、現在すでに資本主義であるとするのは、理論的な誤り(封建制からであれ、社会主義からであれ、資本制の確立は革命を必要とします)であり、また現実の著しい無理解です。
中国は2010年には社会主義市場経済化を基本的に確立するとしています。市場経済化は現在60〜70パーセント台でしょう。
今後も改革・開放は着実に進むでしょうが、市場経済化の基本的確立はもっと後になるというのが私の見方です。