日中友好新聞
2008年3月5日号1面
中国製餃子中毒事件 その背景に迫る
全国食健連 坂口事務局長に聞く
インタビューにこたえる全国食健連の事務局長坂口正明さん
1月下旬に発生した中国製冷凍餃子中毒事件を受けて、日本と中国の政府と関係者は被害状況調査と原因究明に向けた努力を続けています。しかし、いまだに全容解明には至っていません。
今回の事件では、日本の食の現状、食品の製造、出荷、流通、管理体制などさまざまな問題点が浮き彫りになりました。その背景について「国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会」の坂口正明事務局長が語りました。(編集部)
日本の食料自給率39%、さらに低下も
現在の日本の食料自給率は39%で、6割以上が輸入です。しかし、事態はさらに深刻で、農水省が2007年2月に行なった「貿易の完全自由化」に関する試算では12%に落ち込むことが判明しました。
この結果を見た国の経済財政諮問会議の「EPA・農業ワーキンググループ」のメンバーの1人が「国内生産が結構残るじゃないか」と発言。こういう感覚の人たちが日本の食料政策を作っているのです。
日本は、農作物は輸入に頼り、工業製品を積極的に輸出する路線を基本に置いています。政府はいまオーストラリアから農産物を輸入し、関税をゼロにする交渉をしています。もし実現すれば、北海道や鹿児島の農業がだめになると試算されています。食料自給率の向上なしには、日本の農業は維持、再生できないのです。
輸入食品の9割は無検査
「食の安全」に対する問題意識も、私たちが「100%安全が保障されない限り輸入はすべきでない」と考えているのに対し、厚生労働省は「危険だと証明されない限り安全」との立場をとっています。
また、検査体制の不十分さも問題です。食品衛生監視員の数は、私たちの運動で334人まで増員されましたが、それでも検査率はわずか10%です。9割の輸入食品は無検査で日本に輸入されています。しかも冷凍加工食品の農薬検査はまるでしていなかったのです。
日本冷凍食品協会が会員企業を対象にした調査でも、中国からの調理冷凍食品の輸入は、1997年に141億円だったものが2006年には約6倍の812億円に急増しています。いまの輸入のスピードでは、この検査体制では間に合わないのは明らかです。
「売ればいい」というモラルの崩壊
「JTたばこ産業」が低迷し、旭化成の子会社を吸収してJTフーズを作りました。双日もニチメンや日商岩井が合併した大商社です。このような企業の多角化が急速に進んでいます。今回の中毒事件で双日やJTは検査を行わず、監督責任を果たしていません。
もともと輸入品の検査は、サンプル検査の期間はすべて荷物を倉庫に保管していました。しかし、倉庫管理費がかかるということで、今のような「検査中も流通・販売は止めない」体制を作ったのです。
企業の利益を優先し、国民の安全は、二の次、三の次という企業のモラルの低下、「売ればいい」という儲(もう)け第一主義、これは日本のあちこちで起きた「偽装事件」と同じです。消費者は「高くても安全なものを」と分かってはいても、「少しでも安いものを」求めざるを得ないのが現実です。安全性に対する企業の責任は大きいのです。
世界的に広まる「食糧主権」
世界を見ても、食糧と農業にかかわる政策や方針を自主的に決めるという「食糧主権」の考えが大きく広がっています。7月の洞爺湖サミットに向けても、アピールしようと準備しています。
日中友好協会では「食の安全」を日中両国民の生活にかかわる重大な問題ととらえ、2月15日に理事長談話を発表、首相と関係省庁に送りました(2月25日号1面で掲載)。
日中両国が協力して冷静に事実の究明を行い、問題解決に向け協力し合うことが求められます。
日本側と協力し解決したい
中国当局、繰り返し表明
中国製冷凍餃子中毒事件について、中国政府は、日本政府と協力して真相解明とともに食品安全の長期協力体制確立に努めたいとの意向を、再三明らかにしています。
国家品質監督検査検疫総局の魏伝忠副局長は2月7日、北京で日本政府調査団と会見したさい、こう表明したのに続き、13日にも同様の発言を行いました。
新華社電によると、魏副局長は同日、北京での記者会見で「今回の事件は残留農薬による系統的な食品安全事件ではない。人為的な破壊事件である可能性が高く、特殊な事件である」と言明。
人民日報(2月14日付)によると、魏氏はこの記者会見で「中国公安省は現在、生産加工、包装、輸送など各過程の捜査を鋭意進めており、日本の警察との情報交換や有効な協力を希望している」と述べました。
同総局の関係者は「中日合同調査グループを早期に設置し、事実と真相を速やかに解明したい」、「食品安全分野の協力を長期的に進めるための仕組みを速やかに構築し、経済貿易関係の健全な発展を促すよう日本側に繰り返し提案してきた」と指摘。
さらに「企業やマスコミを含む日本各界の友人が中国に来て、食品安全の実情を視察することを歓迎する」とも語りました。