最低限の“生活保障”勝ち取る
与党プロジェクトチームの案は、(1)基礎年金の満額(6万6000円)を支給(2)生活保護に代わる「特別支給金制度」を創設(最高8万円)(3)住宅・医療・介護費を扶助するというもの。これにより、「孤児」の7割にのぼる生活保護世帯の月収は最大で14万6000円に増えることになります。また配偶者にも4万円が支給されます。
これまで「孤児」には、国民年金の3分の1の2万2000円しか支給されておらず、不足分を生活保護で補い、合わせて8万円で暮らさざるを得ませんでした。これで収入面は大きく改善され、大多数の原告が受け入れを承諾しました。
千葉県原告団代表の安達大成(だいなり)さん(74歳)は「私も妻も原告ですが、これまでは2人合わせて9万円の生活でした。何度もあきらめようかと思ったことも。本当によかった」と喜びを隠せません。
「収入認定」残るも、大幅な改善
原告は「生活保護制度からの脱却」を強く要求していました。提示案では、(1)勤労所得などの3割は収入認定から除外(2)貯金や500万円未満の不動産保有を認める(3)「孤児」が死亡しても配偶者に給付を継続(4)収入調査は原則として年1回(5)中国語のできる相談員を配置(6)「孤児」2世や3世に原則として扶養の有無を照会しないなど、これまで生活保護が厳しく適用していた多くの問題が大幅に緩和されます。
安倍首相は「謝罪」せず
提示案を原告団・弁護団が受諾したあとの7月10日、安倍首相が約100人の原告と面会。首相は原告の一人ひとりと握手し労をねぎらいましたが、「謝罪」の言葉はありませんでした。
訴訟支援を担当してきた協会の大田宣也副理事長は、「提示案には、満蒙開拓政策が国策で行われたこと、自立支援策が不十分であったことなどが反省的に触れられている。しかし、中国侵略という誤った国策によって生み出された『孤児』問題に対して、首相の口から謝罪と真剣な反省の言葉はなかった。これは今後にもつながる大きな問題」と厳しく指摘しています。
訴訟の弁護団として、また支援組織の「市民連絡会」事務局長として奮闘してきた佃俊彦弁護士は「収入認定制度の枠を残すなど100%の解決ではなかったが、原告が求めてきた老後の生活保障の達成は大きな成果」と語り、「この案が秋の臨時国会で立法化され、来年4月から運用される見通しだが、本当に実行されるかどうか注視して、支援の手を緩めないよう引き続き頑張りたい」と述べています。
協会など全国の支援運動が結実
協会は、2002年の東京地裁への提訴以来、北海道・仙台・山形・東京・長野・名古屋・京都・大阪・神戸・岡山・広島・高知・徳島・福岡・鹿児島の全国16の地裁高裁で争われてきたすべての訴訟を支援。多くのところで「支援する会」の中心を担ってきました。
また、6月下旬から7月初めにかけて、与党支援策が提示されようとする緊張感のなか、本部、東京と近県の協会役員、会員が原告とともに連日首相官邸前に立ち、「孤児」問題の全面解決を求める要請行動を行なってきました。
この裁判を通じて多くの原告や2世・3世との交流も深まりました。今後の支援活動が一層重要になってきます。
協会はこれまでも全国各地で、「残留孤児」との交流を深め、協会行事への参加、中国音楽や舞踊、料理会、2世、3世との交流会など活発な活動を進めていますが、今後もさらに大きくしていくことが求められています。
(お)
中国「残留邦人」に対する新たな支援策の主な特徴点
(与党プロジェクトチーム案)
(1)支援の対象は、中国残留邦人(残留孤児・残留婦人)全員とする。
(2)老齢基礎年金の満額(6万6000円)を支給する。帰国後に納めた保険料は返還する。低収入の人には、生活費最大8万円を支給する。また、配偶者には4万円程度を付加する。
(3)必要な住宅費・医療費・介護費を支給する。
(4)収入認定制度を適用する。ただし、勤労収入やその他の収入の3割を除外する。
(5)養父母の見舞い、墓参の渡航費にかかわる収入は、認定を除外する。
(6)預貯金は保有することができる。資産価値500万円未満の不動産は保有することができる。
(7)残留邦人が死亡した場合、配偶者があるときは、引き続き給付金を継続する。
(8)中国残留邦人に理解が深く、中国語が話せる「支援・相談員」を配置し、支給手続き等に当たらせる。
(9)可能な限り行政の介入を減らす。収入申告書の提出は原則年1回とする。
(10)生計を別にする2世・3世に対しては、原則、扶養照会をしない。同居していることを理由に給付金が受けられないことがないようにする。
(11)原告に訴訟費用(約2億数千万)を負担させない。
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