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日中友好新聞

2007年5月25日号1面

引き継がれた長江への思い
さだまさしさんと中国
及川淳子
(フリーランスライター)

写真

かつて、さだまさしさんが訪れた三峡(及川さん提供)

 シンガーソングライターのさだまさしさんは、1980年に戦後初めて中国でソロコンサートを行なった日本人歌手として中国国民に強い印象を与えていますが、世界で初めて長江流域を撮影し、ドキュメンタリー映画を制作したことはあまり知られていません。さだまさしさんと中国を結ぶ貴重なエピソードを、06年にさださんの北京再訪に同行した及川淳子さんに紹介してもらいます。

  06年11月、北京日本人学校創立30周年の記念式典で、さださんのコンサートが開催された。会場の世紀劇院には、さださんの歌声と約1700人の聴衆の拍手が響き、「ふるさと」を合唱した子どもたちの笑顔があふれた。武漢を舞台にした歌など中国に縁のあるさださんだが、北京訪問は実に25年ぶりだった。

 「最初の一滴」を求めて

  かつて長江上流を旅した祖父、中国で青春時代を過ごした父母の影響から、さださんは中国に強い憧れを抱いていた。
 「長江の最初の一滴が見たい」。1980年、さださんは中国中央電視台(CCTV)と共同でドキュメンタリー映画『長江』の制作に着手した。長江を河口から遡(さかのぼ)り、流域の歴史や文化を訪ね、長江のほとりに暮らす人びとを世界で初めて35ミリフィルムに収めた。
 映画は、旅の始まりの街・上海で「俺(おれ)とうとう中国に来たんだな。もう、これから先は、本当に全部中国なんだな」というさださんの言葉で始まっている。
 ロケ地は上海、無錫、太湖、鎮江、南京、九江、武漢、岳陽、荊州、宜昌、三峡、白帝城、豊都、重慶、宜賓、楽山、成都など。張家界、大足、蜀の桟道には、外国人として初めて足を踏み入れた。1年半にわたる全行程は流域約3200キロ、撮影総尺数は約113万フィートにも及ぶ。
 当時は水源地域への立ち入りが制限され、最初の一滴に辿(たど)り着くことはかなわなかったが、さださんは峨眉山を踏破し、断崖絶壁に刻まれた蜀の桟道で旅を終えた。過酷な旅の中で生まれたのは「生生流転」という曲だ。

 中国国民にとっても初の映像

  06年夏、CCTVは長編ドキュメンタリー番組『再説長江(再び長江を語る)』を放送。最新技術で撮影された長江流域の文化遺跡、青蔵鉄道や三峡ダム、発展する沿岸の都市やその住民たちが映し出された。
 番組では、時折古い映像が紹介された。CCTVが映画『長江』の映像をもとに、その後独自の取材を加え再編集し、83年に放送した『話説長江(長江を語る)』だ。中国の一般視聴者が長江の全貌を初めて目にした映像作品だった。
 改革開放後の20余年は長江流域や人びとの生活に巨大な変化をもたらした。『再説長江』の制作スタッフは『話説長江』の撮影現場や一般出演者を丹念に探し出し、当時と現在の姿を伝えた。それらの映像は貴重な史料だ。画面には、大きな荷物を背負いながらひたむきに歩き続けるさださんの姿も映されている。

 良き連鎖は決して滅びない

  25年ぶりの北京で、さださんはかつてコンサートを行なった北京展覧館を訪れた。コンサートの模様は、当時中国全土で放送されたという。展覧館の邢(シン)主任は「私もあのコンサートのスタッフでした」と語り、さださんと握手を交わした。言葉や文化が異なる人びとが働く現場の苦労は想像に難くないが、さださんは中国の人びとと共に夢を語り、そして苦楽を分かち合ったのだろう。
 さださんは「50年、100年経たないと、このフィルムを撮った意味は評価されないと思った」とコメントしているが、『長江』から『話説長江』が生まれ、20余年を経て『再説長江』へと繋(つな)がった。遥か「最初の一滴」への思いは、中国の人びとに引き継がれたのだ。
 人と人との出逢い、心のふれあいは、時間や国境を越える。「良き連鎖は決して滅びない」と語るさださん。今後の中国とのふれあいがいっそう期待される。

☆映画『長江』…監督・主演=さだまさし。1981年公開、本編138分。DVD販売元=コロムビアミュージックエンタテインメント、5040円(税込)


さだまさし

 1952年長崎生まれ。シンガーソングライター。命の尊さ、平和の大切さ、日本人の心について歌い、語り続け、1976年のソロデビュー以来開催されたコンサートは前人未到の3400回余。最新アルバムは『美しき日本の面影』。
 故郷長崎で「8月6日に、長崎から広島の空に向かって歌う」と無料のコンサート「夏・長崎から」を主宰。「愛する人、大切な人の笑顔を思い浮かべてほしい。その人の笑顔を守るために自分に何ができるのかを考えてほしい」と伝え続けてきた。平和コンサートは20年目の昨年夏に最終回を迎えたが、今年は8月9日の長崎原爆忌に「夏・広島から」コンサートを広島市民球場で開催予定。
 近年は小説家としても活躍し、『精霊流し』、『解夏』が映画化。母と娘の絆を描いた3作目の小説『眉山』も映画化され、5月12日より全国東宝系にて上映中。



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