世界最大の人口をもち経済が急成長する中国。都会には高層ビルが林立し、若者たちはファッションを競っています。一方で貧富の差や都市と農村の格差は広がり、教育、医療など庶民の暮らしは苦しく不満がつのっています。環境汚染や役人の腐敗・汚職も深刻です。 中国はこの現実にどう立ち向かおうとしているのか。3月5日から開かれた全国人民代表大会(全人代=国会に相当)での温家宝首相報告からみました。
国民生活にかかわる問題を解決できるか―― (交差点で信号待ちをする人びと・南京)
大衆に関わる問題を最優先に 「経済成長は4年続けて10パーセントを上回った。都市住民の1人当たり可処分は1万1759元、農村住民1人あたり純収入は3587元で、前年より実質それぞれ10・4パーセントと7・4パーセント伸びた。小康社会(まずまずの暮らしができる社会)の全面建設に向かって確実な一歩を踏み出した」 首相は1年の成果をこう誇りました。 同時に首相は「大衆の利益に関わる問題が解決されていない」と率直に認めます。 「食品・医薬品の安全、医療サービス、教育費用、所得分配、社会治安、安全食品などで大衆が不満に思っている問題があり、土地収用、家屋移転、企業制度改革、環境保護などで大衆の利益を損なう問題が解決されていない」と。 そのうえで「農村で義務教育の学費と雑費を無料にする」「郷鎮ごとに政府経営の病院を開設する」「汚染企業と都市汚染物質の農村への拡散を禁止する」「土地をめぐる違反を厳しく調査処分する」と約束しました。 いずれもその実現は容易ではありません。環境や土地の問題ひとつみても、企業が地方政府と結んで汚染物質を垂れ流す、農民の土地を取り上げる、といった現実があります。 国民の民主的権利を守れ 首相は「地方や部門に官僚主義や形式主義、大衆からの遊離、権力の乱用や腐敗がある」と指摘しました。 こうして、暮らしや環境のためにも「国民の民主的権利を保障する制度を整える」「法にもとづき民主的権利を直接行使するのを保障する」ことが重要になります。 全人代に先立ち「人民日報」3月1日付で国務院発展センター研究員の呉敬璉氏は「教育、医療衛生など基本的公共サービスを提供できていないことこそ改革を必要とする突出した課題」としたうえで、「政府の改革がカギ」と強調しています。中国では法治の伝統が欠けているので、民主・法治の実行が、それで利益を損なわれる政府官僚の妨害を受けるからだというのです。 改革開放が始まって30年近くになります。今年の全人代は庶民が改革・発展の成果を享受できる調和のとれた社会へ、政府の責任と課題を確認し、さらに発展をめざす中国の到達点と問題点を示しました。 個人の財産を法律で保障 全人代では物権法と企業所得税法を制定しました。 物権法は02年に全人代に提案されてから1万件の意見が寄せられるなど、長年論争されてきました。財産権の保障により、企業は安心して経済活動ができるようになり、個人は住宅や土地の所有が保障され、市場経済のいっそうの発展に役立つと期待されています。 企業所得税法は中国企業と外資企業の所得税を25パーセントに一本化するもの。外資導入で発展してきた経済を中国企業の力でさらに発展させていこうとする意欲がうかがわれます。 (石田聡=ジャーナリスト)
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