香港で学生・市民らによる大規模な抗議行動が始まって3カ月以上経過した。
香港行政府の「逃亡犯引渡し条例改定案」を巡り抗議デモが起こり、主催者によれば最大時200万人、全人口700万人の香港市民の相当数が参加したことになる。
林鄭月娥行政長官は「反省」「謝罪」を口にしたが、同改定案は撤回せず、抗議行動は一層激しさを増していった。その後長官は9月4日に正式に条例案撤回を決定した。解決に向けて第一歩が始まったといえよう。しかし学生・市民らの要求する5つのうち1つが解決したが、課題は残っており、今後の展開はなお予断を許さない。
当初整然としたデモであったが、一部の過激な行動を口実に警察の過剰警備により負傷者が出ると学生らが激しく反発し、対抗手段もエスカレート、空港、地下鉄、市電などの運行にも支障が生じ、香港経済にも大きな影響が出ている。大学生、中高校生の授業ボイコットや各企業、医療現場でのストライキも起こっている。
香港はイギリスから返還された中国の領土である。且つ返還時に中英双方が、資本主義を50年間保証した特別行政区である。その『一国二制度』が次々となし崩しにされ、香港の自由と民主主義が崩壊につながる、との強い危機感を多くの市民が感じている。近年でも銅羅湾書店事件、愛国主義教育、国旗使用の強化、高速鉄道直通による車内で本土の法律適用等々が発生し、本土化が急速に進んでいる。多くの市民・学生の中には悲壮感が漂い、将来を悲観して数名の自殺者も出ている。1000名以上の拘束者が出ても中高校生、大学生のデモ参加が増えている。中国本土の人権と民主主義の現状は多くの市民が熟知しているからだ。返還20周年の17年7月のデモでは「劉曉波を釈放せよ」がメインテーマであった。本土化が進む中、死亡した劉の姿は明日の自分たちだと考えている。そこへ今回の「逃亡犯引き渡し条例改定案」の提出である。この改定が通れば「犯罪者」とされた者が中国本土に引き渡されることが可能になり危機感から多くの市民・学生が立ち上がっている。
行政長官を管理する立場にあるのは法律上中国政府である。中国はデモを暴乱と呼び、背後にアメリカがいると主張し、無法な破壊活動を阻止し、繁栄を守ると表明している。デモ隊の行動を暴徒とみなし、政府系番組で盛んに暴力部分を報道している。隣接する深圳に武装警察、人民解放軍を待機させ、鎮圧訓練を公開し、圧力をかけている。香港には97年の返還以来、人民解放軍3000名以上が駐留しているが、一部で軍の出動も話題になっている。30年前天安門で学生・市民を武力で鎮圧した光景の再来は世界中の誰も願っていないし、特に微妙な関係にある台湾では深刻に受け止められている。
いま世界中が香港の趨勢に関心を向けている。中国と覇を争うアメリカは積極的に発言しているが、香港の問題は基本的に香港行政府、市民、中国政府が解決すべき問題であり、混乱に乗じて他国が関与すべきではない。問題をさらに混乱させるだけである。一方当事者に求められているのは暴力や脅しではなく、冷静に事態を解決することである。そもそも香港の祖国復帰(香港回収工作)を不安も混乱もなく進めるための保障が『一国二制度』であった。当時の最高指導者、鄧小平の発案と言われ、全世界注視の中、イギリスサッチャー首相との香港返還協定で約束されたものである。関係者全員が50年間厳守せねば香港の未来はありえない。
香港行政府や中国政府が本土化を急げば急ぐほど市民らの心は離れていく。市民らが本当に祖国中国に復帰して良かった、と思えるような中国であることが必要だ。いまはアヘン戦争で香港を失った清朝の時代ではない。市民らはこの150年以上、イギリス式の自由と権利、民主主義のもとで生活を享受してきた。その市民らの心情に寄り添った祖国でなければ、激しい反発を受けるだけだろう。
現制度では市民・学生の声を反映する機能は議会には整っていないといえる。消極的にせよ暴力的行動を支持するような声が多数出てくるのは絶望的状況である。今こそ双方が鄧小平、サッチャーの創案した制度を平和的に向上させる内容を考えだしていくときではないか。アジア有数の金融市場であり、発展した香港こそが、中国にとっても、香港市民にとっても希望ある未来になる。そうでなければこの先香港は「没有出路(出口が見えない)」、誰も勝者のいない暗黒の香港になってしまう。
香港と日本は、経済的にも人的交流の面でも極めて関係が深い。それだけでなく過去の一時期3年余の長きにわたり侵略した日本は香港史上最も暗黒の時代といわれたことを忘れず、香港の発展を願っていきたい。
2019年9月11日
日本中国友好協会
理事長 田中義教
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