公式見解
東シナ海を平和・協力・友好の海に
「尖閣諸島沖の漁船衝突」事件 協会の見解
9月7日に尖閣諸島沖で中国の漁船が海上保安庁の巡視船と衝突し、船長が逮捕された事件をめぐり、日中関係は深刻な状態に陥りました。
尖閣諸島に関しては協会会員の多くが日本の領土であると認識しています。古くから日本、中国ともに航海の目印として認識されてきましたが、無人島であったものを、日本が1895年に沖縄県に編入、1896年に民間人に無料貸与され、以後経営が営まれていました。そして、1970年に台湾、1971年に中国が領土主張を行うまで、中国、台湾のどちらからも日本領であることに異論が出されたことはありません。
中国からは、尖閣諸島は明朝の時代から統治権が確立していたので日本の先占ではない。日清戦争で中国が敗れ、台湾・膨湖島を日本に割譲する馬関(下関)条約を結ばなければならなくなる直前に、日本は沖縄県に編入した。カイロ宣言、ポツダム宣言にもとづき中国に帰属すべきものである、戦後の処理も中国を無視したサンフランシスコ単独講和で決められた、などの主張が出ていますが、1970年代まで領土主張をしたことがないという事実を日本国民は重視しています。
領海内での不法な漁船の操業を日本の巡視船が取り締まるのは当然ですが、日本政府は、これまで、中国に対して、尖閣諸島の領有権の根拠について明確な主張をしてきませんでした。今回は、尖閣諸島に「領有権問題はない」として船長を逮捕・拘留し、日本の国内法にもとづいて「粛々とすすめる」との態度をとりました。しかし、中国側が領有権問題で主張があるなかで、根拠の明示もしないままに、相手の主張に耳を貸さずに強硬な手段をとるのでは、対立を深め、問題の解決を遠のかせるばかりです。
1978年の日中平和友好条約の交渉のなかで、この領有権問題は事実上棚上げになったという経緯もあり、中国側も領有権の主張はしつつも日本の実効支配を事実上認め、「保釣」(釣魚島=尖閣諸島防衛)活動家の接近や上陸を抑えるなど、一定の抑制を行なってきました。日本側も、中国からの領海侵犯、上陸などに対して、その都度日本政府が強制退去させ、事態の拡大を避ける対応を行うなど、両政府ともに政治問題化しないように収拾をはかってきました。
2004年に中国人の活動家が上陸した際には、この活動家を逮捕しましたが、2日後には国外退去処分として日本政府は事態を収拾しました。しかし今回は、領有権問題を曖昧にしたままに、船長を逮捕するにとどまらず拘留期限を延長するという、これまでの日本政府の対応を大きく変える措置をとりました。そして、この措置を指示したと伝えられる前原誠司国土交通大臣(当時、現外務大臣)の度重なる対中国強硬発言や、この事件に関連しての枝野幸男民主党幹事長代理の「中国は悪しき隣人」との発言などからは、中国に対して強硬な姿勢で臨もうとする外交の危うさが浮き彫りになっています。
中国政府は拘留延長という日本政府の対応を契機に態度を硬化させ、閣僚や省長レベル以上の一時交流停止、東シナ海のガス田問題をめぐる条約締結交渉の延期、日本の青年1000人の上海訪問の受け入れ延期などの対抗措置を一方的に打ち出しました。
また、中国側からのレアアースの輸出の停止や、旧日本軍の遺棄化学兵器処理に関連する民間企業の社員の河北省での拘束も、対抗措置のひとつと取り沙汰されています。
政府間の対立をもとにした対抗措置が民間交流の分野に持ち込まれたことによって、日本国民の中国に対する不信感が増し、中国「脅威論」の台頭につながっている現状を強く憂慮するものです。
近年日本と中国の関係は政治、経済分野をはじめ、社会のあらゆる分野で関係が緊密になっています。そのため今回の事件をめぐる日中両国政府の対応がもたらす影響は、これまでの枠を大きく越え多方面に広がっています。
人気グループSMAPの上海公演、自治体レベルの友好の旅中止が各地から伝えられました。楽しみにしていた修学旅行の中止も含まれるなど、関係者の苦悩は計り知れません。中国側からは1万人の団体客の訪日中止、中国の芸術団来日公演中止なども報じられ、協会の関係でも11月に予定されていた日中友好囲碁大会への中国の子どもたちの参加が、安全性を懸念する中国側の意向で取りやめとなりました。
多くの友好交流を願う双方の国民の願いが残念ながら中止の事態となっただけでなく、天津の日本人学校に鉄玉が撃ち込まれたのをはじめ、広州市の日本領事館にビール瓶が投げつけられ、福岡では中国人観光客が乗ったバスが右翼の街宣車に取り囲まれ、福岡と長崎の中国総領事館に発煙筒が投げ込まれるなど、許すことのできない事件が日中両国内で起きました。日中の共同世論調査にも表れているように日中両国民の不信感がなかなか改善しない状態のなかで、今回の事件をめぐって日中両国民の相互不信がさらに悪化することが懸念されます。
中国のGDPが日本を抜き世界第2位になるなかで、日本国内では「中国脅威論」や「抑止力論」が強まっており、この漁船衝突事件が起きる以前に、今年末までにまとめられる日本の新たな防衛計画の大綱のなかで尖閣諸島の防衛強化が柱として打ち出されると言われ、年内にも尖閣周辺での紛争を想定した日米合同の軍事演習が計画されていると伝えられていました。今回の事件は「中国脅威」論を煽って自衛隊の増強と日米同盟の強化が進められるなかで、日本と中国が対立をエスカレートさせることにもなりかねず、アジアの平和と安定にとっても大きなマイナスです。
日中両国は常に友好の観点から信頼の醸成をはかることが大切であり、とくに日中双方の考えが対立する尖閣諸島の領有問題は、どんなに時間がかかっても平和的な話し合いで解決を求めるとともに、こうした問題が解決されないなかでも、信頼関係を打ち立てていくことが必要です。
「ともに努力して東シナ海を平和・協力・友好の海にする」(2008年5月の日中共同声明)ことが未来への展望です。
10月4日、アジア欧州会議(ASEM)に出席した菅直人首相と中国の温家宝首相が会談し、中国漁船衝突事件で悪化していた両国関係を改善していく方向で一致しました。これを契機に、拘束が続いていた日本人が釈放され、民間交流も再開され始めています。日中両国政府は、今後とも再発防止の話し合いの具体化など、関係改善のために行動することが求められています。
日本中国友好協会は、尖閣諸島領有にも関わる近代史において、日本の侵略戦争が中国国民に多大な犠牲を強いたことに対する反省と正しい歴史認識を、日本政府と国民が念頭に置く大切さを訴えるとともに、いかなる事態においても日中両国民間の友好交流を絶やすことなく、日中両国民の相互理解の促進のために、国民に根ざした日中友好運動の発展に一層の力を注ぐものです。
2010年10月11日
日本中国友好協会
第59回大会期第1回理事会
[一覧に戻る]