公式見解
−協会声明−
中国人戦争被害者訴訟の最高裁判決・決定と今後の闘いについて
最高裁は4月27日、西松建設強制連行・強制労働事件訴訟において、中国人戦争被害者の個人請求権問題について初めての判断を示し、日中共同声明によって個人請求権は「裁判上訴求する権能は失われた」とする判決を下した。また、「慰安婦」第2次訴訟についても西松建設訴訟同様に、日中共同声明で裁判上での請求権は放棄されたとの判断を下した。いずれの判決も、日中共同声明の内容を、一方の当事国である中国の意思を無視して解釈した不当なものであり、到底容認することはできない。さらに最高裁は、「慰安婦」第1次訴訟、劉連仁事件訴訟、福岡強制連行・強制労働第1陣訴訟、731部隊・南京虐殺・無差別爆撃訴訟、731部隊細菌戦訴訟の上告棄却、上告不受理を決定した。被害者が訴える事実について一切審理をせず門前払いとした最高裁の決定は、司法の責任を放棄するものと言わざるを得ない。
一方で最高裁は、西松建設訴訟判決のなかで、「請求権の放棄とは、請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるにとどまるものと解するのが相当である。個別的具体的な請求権について、その内容等に鑑み、債務者側において任意の自発的な対応をすることは妨げられない」と述べるとともに、「本件被害者らの被った精神的・肉体的苦痛が極めて大きかった一方、上告人は前述したような勤務条件で中国人労働者らを強制労働に従事させて相応の利益を受け、更に補償金を取得しているなどの諸般の事情にかんがみると、上告人を含む関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待されるところである」と付言した。判決は日中国交正常化の基本的精神である日中共同声明を曲解し、裁判上の訴求の権利を否定する不当なものであるが、最高裁が強制連行・強制労働の事実と加害企業の不当行為を認定し、加害企業ならびに国に対して被害者の救済を促す付言を呈したことは、これまでの全国各地の裁判での闘いが勝ち取った重要な成果であり、中国人戦争被害者問題の全面解決に向けての新たな一歩として重要な意義を持つものである。
日本中国友好協会は、日本の侵略によって多くのアジア諸国民に惨禍をもたらしたことへの痛苦の反省の上に立ち、二度と再び過ちは繰り返さないとの誓いのもとに日中友好運動をすすめてきた。日中友好の精神のもとに、日本の心ある弁護士らが中国人戦争被害者と連帯して日本での裁判の闘いに立ち上がったのは1995年。以後これまでの12年におよぶ闘いのなかで、全国各地の協会役員・会員も、反戦平和と日中友好の思いのもとに支援の輪を広げてきた。そして、全国各地の裁判の闘いは、幅広い国民の前に、侵略戦争の実態と、日本政府や戦争に加担した企業の責任を明らかにし、世論を揺り動かしてきた。
最高裁判決によって、闘いは新たな段階に入ったと言える。戦争体験のない世代が圧倒的多数を占めるに至った日本において、全国各地で闘いが続けられている裁判が、引き続き、事実の認定を勝ち取るとともに、国と企業の責任で問題解決をはかる道筋を指し示していくことは、これまで以上に重要な意味を持っている。そして、侵略戦争の責任の明確化と被害者の救済を具体化するための闘いが、法廷にとどまらず、政治的な場へと舞台を広げてきた今、問題の全面的な解決をめざす運動は、国民的な広がりと世論の昂揚を強く求めている。米下院での「慰安婦」決議の動きや靖国神社に対する海外メディアの批判などにみられるように、国際世論は日本が歴史の事実と正面から向き合うことができるかを厳しく問うている。国際社会の一員として、日本の政府、国会、加害企業が歴史の真実を直視し、被害者に対する謝罪と責任ある対応のもとに問題解決をはかることを求める声は、内外で高まりをみせている。そして、この問題の解決なくして、日本はアジアはじめ世界諸国民からの信頼を得ることができない。
中国人戦争被害者の多くがすでに他界し、生存者の高齢化は進んでいる。残された時間は少ない。これまでの裁判の闘いによって勝ち得た成果に立って、問題解決を求める声を急速に国民の広い世論にすることが求められている。日本中国友好協会は、これまでの運動の積み重ねを力にし、幅広い国民各層との連携を強めながら、被害者の救済と戦後補償問題の解決のためにさらに奮闘していくものである。
2007年5月16日
日本中国友好協会(会長 伊藤敬一)
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