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日中友好新聞

2011年2月5日号1面
新防衛大綱はまたもや米戦略に追随
「中国脅威」の新たな軍事配備 伊藤力司

 日本政府は昨年12月、「新防衛大綱」を発表しました。その目的や内容、とくに中国をにらんだ新たな対策のねらいなどについて、伊藤力司さん(ジャーナリスト)に解説をお願いしました。(編集部)

 

写真1 Official Home of the United States Marine Corps
昨年12月18日、テリー・G・ロブリング中将(第3海兵機動展開部隊)とあいさつする菅首相
(米海軍HP Official Home of the United States Marine Corpsより)

 菅内閣は昨年12月17日、日本政府として6年ぶりに新しい防衛計画大綱を閣議決定した。中国の動向について初めて「地域や国際社会の懸念事項になっている」と規定、自衛隊の配置を南西地域にシフトする方針を示した。
 また憲法9条とのかねあいで必要最低限の防衛力を整備する従来の「基礎的防衛力構想」から脱却、多様な脅威に機動的に対応する「動的防衛力構想」を打ち出した。
 昨秋来の北朝鮮の挑発行動や尖閣諸島がらみで強硬姿勢を見せた中国に対処する基本方針を策定したという触れ込みだが、その実は対米追随を基本とする菅政権の姿勢を一層明らかにした防衛大綱である。

 

「動的防衛力」の新構想

 

 まず防衛大綱の骨子を以下に列挙しておこう。
 @中国の動向は地域や国際社会の懸念事項 A北朝鮮の軍事的動きは地域安全保障の喫緊、重大な不安定要因 B日米同盟を深化・発展。米、韓、豪との多国間協力を C装備品の国際共同開発・生産が先進国では主流 C「基盤的防衛力構想」から「動的防衛力」に転換 D部隊の地理的配置を見直し、南西諸島の防衛体制強化。「空白地域」の島嶼部に必要最低限の部隊配置 E国連平和維持活動(PKO)参加5原則のあり方検討。
 中国は国防費を毎年2ケタ以上増やし、核・ミサイル戦力や海・空軍力を急速に近代化していると指摘。「周辺海域において主権的権利に関する独自の主張を強めながら活動を拡大、活発化させている」と、東シナ海・南シナ海での中国の軍事・経済活動に懸念を示した。
 2004年の防衛大綱までは、自衛権をもつ独立国として必要最低限の防衛力を整備する必要があるとして、憲法9条の戦力不保持条項に背馳しないようにとの知恵を込めた「基盤的防衛力構想」を維持してきたが、今度の防衛大綱では「動的防衛力」整備との新概念を盛り込んだ。

 

与那国島への部隊派遣も

 

 「動的防衛力」を具体的に示す一例は、沖縄県の防衛態勢を強化するため、警戒監視や洋上哨戒、弾道ミサイル防衛(BMD)など海・空の防衛力を重点的に整備。特に島嶼部を「自衛隊配備の空白地域」とし、「必要最小限の部隊を新たに配置する」ことだという。
 これは台湾に最も近い与那国島への陸自部隊派遣を想定したものだ。
 防衛大綱を制定するために2010年2月、当時の鳩山内閣が設けた諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(安防懇)が10年8月に提出した報告書は、日本が今まで安全保障の基軸としてきた大方針の廃止ないし大幅手直しを求めた。
 例えば、米国との共同作戦を可能にする集団的自衛権は現行の憲法解釈では認められていないが、日本政府は責任をもって正面から取り組むべきであるとしている。
 さらに防衛力の役割を侵略の拒否に限定してきた「基盤的防衛力構想」は、軍事力の役割が多様化する中で有効性を失ったというのだ。
 なぜ安防懇がこのような報告書を出したのか。その理由は昨年2月に発表された米国の「4年ごとの国防政策レビュー」にある。オバマ政権下で初めて出したこのレビューは、基本的にはブッシュ前政権の「力による外交」(Power Politics)を踏襲している。

 

オバマ政権は「米中協力」が基本

 

 オバマ政権は、この1月胡錦濤中国国家主席兼中国共産党総書記を国賓として迎えた公式イベントの中で、中国の人権政策を厳しく批判しながらも「米中戦略・経済対話」を通じて、米中協力・互恵の基本線を守る方針を明確にした。
 「登り龍」の中国は世界第2の経済大国になったとはいえ、国内にさまざまな矛盾を抱え、米国との覇権争いに挑むところまでは来ていない。もし太平洋を舞台に米中が本格的覇権争いを始めたら、最も被害を受けるのは日本だ。
 日本はそろそろ、米国に追随するのをやめて米中の覇権争いの「止め男」にならなければならない。

 

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