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日中友好新聞

2009年8月15日号1面
中国のピアニストとピアノ音楽
ピアノ・ブーム

 協会会員で広島在住の井上豊さんに中国のピアニストとピアノ音楽について執筆してもらいます。(編集部)

 

写真
クラシックコンサートがよく行われている北京の「保利国際劇場」

ピアノ人口の増加

 

 中国とピアノの組み合わせを、本紙の読者のなかには意外に思われた方がいるかもしれません。中国の音楽といえば二胡など伝統楽器のイメージが強いのですが、今や中国はピアニストを輩出する国でありまして、この国で作られたピアノ音楽とともに世界に向けて羽ばたこうとしているのです。
 1990年代から顕著になった中国のピアノ・ブームは現在空前の規模に達しています。ピアノ学習人口は5000万人ともいわれ、「香港文匯報(ぶんわいほう)」によると中国では900万人が定期的にレッスンを受けていて、それは世界のピアノ学習者の半分近くにも及ぶというのです。当然ながらピアノ教室もピアノ生産台数も増えて、日本のヤマハをはじめ諸外国のピアノメーカーの参入もあるということです。
 こうしたピアノ・ブームを強力に支えているのが、2000年のショパン・コンクールで優勝したユンディ・リー(李雲迪)や北京オリンピックの開幕式で演奏したラン・ラン(郎朗)などピアニストたちのめざましい活躍です。彼らには卓越したテクニックと表現力の豊かさ、いわゆる先進国にはみられないハングリーさがあるのです。
 日本ではピアノ・ブームはすでに通り過ぎてしまった感があり、各地のピアノ教室は苦戦していると聞いています。中国は日本のあとを追いかけているようにも見えますが、しかしこの国独自の事情を見落としてしまってはならないでしょう。

 

激動の時代のなかで

 

写真2
井上豊さん

 中国のピアノ・ブームを考える時、この国のたどった激動の歴史を見ないわけにはいきません。
 中国では20世紀になってからピアノの本格的な受容が始まり、49年の革命以降はソ連の音楽教師の指導もあって、中国人ピアニストが国際コンクールに入賞するまでになりました。ところが66年からの文化大革命ではピアノ音楽そのものが批判され、存亡の淵に立たされたのです。
 その後、78年から改革開放の時代が始まりますと、今度は一人っ子政策による教育重視の風潮もあってピアノ学習者が増え始めました。しかし、なぜピアノなのでしょう。
 中国にも子どもの音楽家としての成功を願って躍起(やっき)になる親はいますが、それ以上に、ピアノ教育が人間の素質を向上させるということが社会的に認知されていったのです。
 中国政府の教育方針もかつては「知徳体」の全面発展を求めるものでしたが、今ではこれに「美」が加わっています。「美育」すなわち美術・音楽などの教育の重視は、政府が進めようとしている社会主義精神文明建設とも深く関わっています。

 

ユニークな作品群

 

 ところで、中国のピアニストはショパンばかり弾いているわけではありません。中国は自国の作品を重んじ、積極的に演奏している国です。中国のピアノ音楽はヨーロッパのものとはちがい、いわば中国の心を奏でるピアノです。またピアノにつきまとうブルジョア趣味というイメージをふっしょくしてしまう音楽でもあるのです。
 中国のピアノ・ブームがこの国と世界に何をもたらしていくのかを注視しつつ、この国のピアノの歴史をたどり、皆さんをその奥深い世界へとご案内したいと思います。(広島長束協会牧師・アマチュア音楽家)

 

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